黙っている春斗を見ているのに耐えられなくなった私は視線を春斗からそらして緊張のせいか背筋が伸びる。
「言いたくないことくらいあるよね。ごめん。ちょっと深堀しすぎて……」
「あるよ」
　春斗の声はいつもの声。
でもその声は過去を振り返ってその過去を綺麗にしまいながら話しているようだった。
「後悔してるというか、過去の人物や関係はもう二度と出会えない、いられない。その人と話せなくなった時、きっと待っているのは後悔だと思う」
　遠くを見ながら話す春斗は寂しい目をしている。
でも顔は優しくその幸せだったシーンを時々浮かべながら話していることが伝わってくる。
「後悔するとわかっていても人は踏み出せない時がある。それをあの時に気づいたから俺はあいつが後悔するのを防ぐために言った」
　私は目の前の出来事をとらえてはそのことに対する感情で心をその色に染めていた。
どんな行動をすれば後悔しないのか。
どの気持ちを大切にしなければならないのか。
春斗の言葉で自分が成長するのに必要なことを学んだ気がした。
「春斗って優しいところあるよね」
「俺はいつでも優しいけど？」
　片方の口角をあげて自慢げな顔をする春斗の顔を見て私も笑う。
「そうかもね」
「夕希は冗談を真面目にとるのが癖だな」
　そう言いながら春斗は軽く私の頬をつねった。
春斗が話す後悔は春斗の過去からの教えなのかもしれない。
そうだとしたら春斗は冗談ではなく本当の優しさを持っているように感じた。