名もない花のように生きる君へ

 残りのおかずを食べて弁当を鞄にしまう。
そこから始まった私の嫌な時間。
気づけば前にも同じような状況下であったことを思い出したのは、不機嫌そうな女子の姿を目にしたから。
しかも今日は一人ではなく三人組。
目を合わすことすらできない私は唇を噛み締めていた。
「時田君となんで仲良くしてるわけ?」
 前にも同じようなことを聞かれた気がする。
その時はまだ春斗のことをよく知らなかった時。
あの時はすぐに否定できたはずが今では否定できないほどになっていた。
不機嫌な顔は戻らず、私の前に居続ける。
「言ったよね。仲良くするなって」
 目を合わせなくとも伝わってくる圧迫感。
今にも逃げ出したかった。
でも逃げ出せない。
怖いからとかではない。
春斗のことを私は手放したくなかったから。
「どうして仲良くしちゃダメなんですか……」
 小さくうつむき加減で言う私を見て余計に腹を立てたことはすぐにわかった。
自分でもどうして反論しようとしたのかわからない。
頼れる人がいない環境でどうして自分を窮地に追いやったのか。
言った後から後悔し始めた時、もう既に彼女たちの逆鱗に触れていた。
「あんたね」
「みっともない」
 迫ってくる恐怖の中でまた別の声がした。
その声は綺麗。そして冷静な声。
私に向けられていた視線が一気に変わったことで私もようやく顔をあげられる。
「なんて言ったのよ」
 怒りの矛先が変わってようやくわかったのは圧迫感はこの人数。
一番、怒りをあらわにしているのは前と同じ彼女。
その後ろにいるのはポニーテールやサイドテールを揺らしてただ見ているだけだった。
「みっともないって言ったの」
 綺麗でもどこか棘のある声をしているのは黒髪をまっすぐに伸ばしていてスタイルもモデルのようにスラリとした綺麗な女子生徒だった。
「誰と仲よくしようが勝手でしょ。自分がその人と上手く会話ができないから嫉妬してるだけ。違う?」
 自分の意見を述べたうえで聞き返す。完璧すぎる話し方をする彼女は綺麗な顔立ちをしているのに、冷たい視線を送っている。
「あと、顔だけで好み決めない方がいいんじゃない」
 動揺も一切せず、おびえることもない彼女は強く見えた。
自分の言葉をはっきり伝えられる人。
まさに自分に足りないところを持っている気がした。
「話終わったならどいてくれない?邪魔なの」
 彼女の一言で女子三人組は一度私をにらみ、もう一度彼女を見ると廊下へと姿を消した。
それを見て反論した彼女も何事もなかったように一番後ろの席に座る。
かっこいい。
一番最初に感じた言葉だった。
彼女は意見があればしっかりとその言葉をつかんで声に出して言える。
羨ましかった。
いつも避けてきた道を彼女が歩いているようで。