その先の言葉が詰まっていることがわかった私。
ただ話を聞くだけ。
それも正解なのかもしれない。
でも私と同じように上手く伝えることのできない杏夏をそのままにはできなかった。
「杏夏はその人が好きなんだね」
私の手に一粒雫が落ちる。
見れば杏夏の目から涙が溢れている。
頷いて、でも声にならない辛さを刻んで言葉を押し出す。
「好き。でもどうしたらいいかわからない。私のことを想ってなくても私は想い続けていいのか。ずっと考えて、悩んでた」
「いいんだよ」
急に入ってきた春斗の声。
春斗はずっと黙っていた。
久しぶりに出した言葉は優しく、杏夏の涙を止めた。
「人を好きになるのは自由。想い続けることは罪じゃない。いつか夢に見たような日が来るのを待つのは辛い。でもその日が来るのを待てる間は待ち続けてもいいと思う」
杏夏と私は遠くを見つめて懐かしむような顔をする春斗を見つめた。
「あんたらしくない」
「俺も同じような経験したから」
その言葉でふと少し前の話を思い出す。
春斗に一人だけ優しくしてくれていた女の子がいて、その子が初恋だったという話。
春斗もその人を想い続けていた。
恋という言葉の内容を知らなかった私。
今、その恋が単純ではないことを知ってその想いを持っている二人は私の知っている世界よりも広い世界を見ているようだった。