私と春斗の家が近い公園で春斗が買ってきた飲み物を片手に私たちはベンチに座る。
座ってもなかなか口を開かない杏夏にどう接していいのかわからない私たちはお互い目を合わせては杏夏を見ての繰り返しだった。
「くだらないと思わないでくれる?」
 杏夏が言葉を発して私たちは背筋を伸ばす。
「もちろん」
 私の顔を一度見て頷く杏夏は目の前の人のいない公園を見た。
「私、友達がいなかったの」
「やっぱりごめん」
「違うの」
 春斗が申し訳なさそうに言うと杏夏はやはり否定する。
「昔から人と話すのが怖かった。いつしか人と話すことすら嫌になって話すときはいつも思ったことをすぐに言ってた。そうすれば人と関わらなくて済むってわかったから」
 話し続ける杏夏に黙って頷く私たち。
それを見て杏夏は話すことを決意したようにまた前を向く。
「その私に一人だけ優しくしてくれる人がいた。その人は幼馴染で昔から一緒だった。それが当たり前だと思ってた」
 杏夏が話す空間を作るように風が温かく吹く。
「でも一緒にいられなくなった。海外に引っ越したの。その人は何も私に言わなかった。突然前から姿を消してしまったの」
 だんだん杏夏の声が小さく弱くなって私は杏夏の手を握った。
「でも、こないだその人が帰ってきたって耳にした」
「そしたら……」
 私の言葉に首を振った。
「何を言えばいいかわからなくなる。責めてしまうんじゃないかとも思った。だから会わなかった」