下校時刻を告げる音楽が流れて私たちは勉強道具をしまって教室を出た。
帰り道に私たちの前を手をつないで帰る制服のカップルが目に入る。
「さすがにあれはできねー」
　横で同じ景色を見ている春斗は首を振っている。
「あんたは自分がその立場になったらするでしょうけどね。まあ今はその相手がいないかもしれないけど」
　最近の杏夏は意地悪な表情をしながら春斗をからかうことが多い。
杏夏の素顔がだんだんと見ることができて心が温まる。
「うるせー」
　春斗もいつも通りに鋭い口調を出すが前のような棘は感じない。
「どうせお前も俺と同じで友達いなかったんだろ」
「そうね……」
　急に杏夏の声が寂しさが入り混じった弱弱しい声になったのに気づいて杏夏を見ると今まで見たことのない悲しい表情をしていた。
「杏夏？」
　私の声で春斗もその様子に気づき私を見た後、慌てたように言い直す。
「ごめん。冗談きつかった……」
「違う。あんたのせいじゃない」
　春斗の撤回した言葉にも否定をする杏夏はいつもらしくない。
久しぶりに戸惑う感覚を呼び起こされて鼓動が速くなる。
「ねえ」
　うつむいたまま杏夏は口を開いた。
「私の話聞いてくれる？」
　うつむいた顔をあげた杏夏は力のない目で私たちを見ていた。