真剣な顔で学校を見つめる春斗は過去を振り返っている。
そんな風に見えた。
「俺は救われた」
 急に開いた口から出た一言。過去を見ている春斗の顔は寂しさを漂わせる。
「小さい時から誰にも受け入れてもらえなかった。同じ年齢のやつも、きっと家族からも」
 言うのが辛いのはまだ春斗の中で振り返ることができない証拠だった。
私が止めようとすると春斗は手を広げて私が止めるのを拒んだ。
「親の離婚の協議で家はボロボロだった近所にもわかるものだったんだと思う。俺は小さすぎて理解できなかった。でも一人だけ何も思わず、ためらいも同情もなく話してくれた人がいた」
 遠くを見る春斗の顔が少しずつ切なさを軽くしていく。
「その人の名前は、小倉夕希」
 目を丸くした私を見た春斗は微笑んだ。
予想をしていたから私の反応を見られたんだと思う。
「自己紹介をして笑顔でいつもの公園で話したり遊んだりしてた。楽しくていつまでも続けばいいと思ってた」
 過去形になる言葉はいい展開ではない。
いつも私が思っていたのは過去形の言葉だったから。
「いきなり俺は知らない街へ連れて行かれた。その頃には愛想も優しさも忘れてた。高校選びの時、母さんが手紙を送ってきた。チャンスだと思った。また会えるかもしれないって」
 春斗の思い出が私の心に響いてくる。
その響く思い出はいろんな音を奏でている。
「そしたらやっと会えた。一からになることはわかってた。だから俺は夕希を誰よりも守れる男になりたいと思ってた」
 春斗は私と一緒で闇の道を手探りで進んでいた。
それにも気づいていない自分も情けなかった。
「出会った時、あんなに笑顔だった夕希が笑わなかった。その理由を知って俺はきっと夕希を救おうと決めたんだと思う。でも未来のことだから本当のことは俺もよくわからない」
 はっきり言わないのはきっと春斗の責任感からだろう。
でも春斗を見ていて思う。
今の世界。
今の時間。
それが私たちを笑顔に。
そして瞳に力を与えてくれている。