三月。私たちは無事高校を卒業した。
駅の中は昼間ということもあってか思うよりもすいていた。
スーツケースを持って改札の前で私たちは足を止める。
「本当に離れちゃうんだね」
 私は弱気な声を出してうつむく。
「会いに行こうと思えば会えるから。でも私も寂しい」
 杏夏は関西の大学に進むことになり、私たち二人とは離れて暮らすことになった。
私と杏夏は顔ををじっくり見るとお互い顔が歪む。
「新幹線乗ればすぐなんだからそんな感動の別れみたいにならなくても」
 横にいる春斗が少し笑いの入った声で私たちを見つめた。
「男にはわからないのよ」
 杏夏は春斗の顔を見ると冷たい眼差しを送る。
でもこの関係。
このやり取りが私は好きだ。
いつも通りの日々が好きだ。
「杏夏」
「ん?」
「また私の相談と春斗の嫌味聞きに来てね」
 その言葉に春斗はすぐに反応するが一瞬で私たちの中に笑いが生まれる。
いつからこんな冗談が言えるようになったのだろう。
でもこの二人にならどんなことでも言える気がする。
この関係が長いか短いかなんてわからない。
それでも今という時間を楽しんで後悔のない人生にしたい。
改札を通る杏夏の背中はいつも通り綺麗なたたずまいだった。