保健室は一階の端。
その一階まで下りずに私は二階を走った。
一度足を止めたのは図書室の看板を見た時。
大きく深呼吸をして私はまたいつもの廊下を走った。
資料室。
その看板を見て切らしていた息を整える。
「お願い」
 肩を大きく動かして息をする。
その空気を言葉に変える。
壁に手を当てていつもの温もりを感じたかった。
でも温かさはない。
「お願いだから、出てきてよ……」
 気づけばうつむく顔から涙がこぼれる。
「私、今の春斗にも未来から来たあなたにもたくさんのことを教えてもらって、たくさん助けてもらった」
 滲む世界で過去を思い返せば一つの映画のようだった。
「初めて人と会話して、その人を大切にすること。それには努力も必要だった」
 一つずつ思い返せばいくらでもある。
一つずつ思い出す中でまずは春斗のことだった。
「その努力も人を頼ることで叶うことがあるってこと。自分自身と向き合って自分のままで生きていくことも大切だってこと」
 どんどん広がっていく私の記憶。