名もない花のように生きる君へ

 未来の春斗に出会ったのは昨日のこと。
それでも先ほどのことのように鮮明に覚えている。
重たい足を少しでも早く動かそうとして足に力が入る。
学校に着く頃には足に疲労がたまって動くのが辛い状況だった。
春斗がいつも通り来れば問題はない。
だからきっと大丈夫。
春斗は教室に来てくれる。
いつもの笑顔を見せてくれる。
そう思いながらホームルームの時間を知らせるチャイムが鳴る。
もう他の席にはそれぞれ生徒が座っている。
その中で春斗の席だけが空いている。
今にも呼吸が止まりそうだった。
違う。何かの間違いだ。
「事故に遭ったそうだ」
 その言葉だけ聞こえた。
事故。
未来の春斗は事故で命を落としたと言っていた。
春斗は?
本当にいなくなってしまうの?
春斗がいない学校生活なんて、春斗がいないなんて……
春斗の笑顔がずっと頭の中を埋め尽くす。
「夕希」
 何も聞こえない世界から綺麗な声が聞こえた。
初めて会った頃と変わらない杏夏の綺麗な声だった。
「杏夏……」
 いつも笑顔で三人でいた。
それなのに一人いないだけでこんなにも世界が変わってしまう。
その世界を受け入れたくなかった。
「ごめん。保健室行くから次の集会出ない」
 次が集会だというのを利用して私は杏夏に嘘をついてその場を去った。