名もない花のように生きる君へ

 光も温かさも消えた時、私は現実に戻った。
すぐに浮かんだ春斗の顔。
私は鞄を抱えて走った。
走る私は教室に急いで入る。
そこには目を丸くして私を見つめている春斗がいた。
今目の前にいる春斗は力のある目をしている。
その目、自然な笑顔。
全てが大切で失いたくない。
春斗の腕を強く掴んだ時にはもう春斗以外目に入らなかった。
「お願い。いつもの交差点に近づかないで!」
 うつむいて春斗の顔すら見れない。
息を切らして春斗の腕を掴んでいる私。
必死だった。
大切。その言葉に当てはまる春斗を失うのは絶対に嫌だ。
もう苦しみたくない。
「どうした。夕希、頭でも打ったか?」
 私が急に言い出したことを春斗は理解できない。
理解できるはずがない。
理解できない春斗は苦笑いすることしかできない。
「急にどうしたんだよ。委員会の仕事まだ残ってるから……」
「事故に遭うの!」
 掴んだ腕が離れていくのが怖くて思わず声をあげる。
肩を大きく揺らして息を吸う。
「なんだよそれ……」
 聞きたくなかった。
最初に聞いた春斗の棘のある声。
違う声に気づいて顔を見れば優しい表情もなく私を見ていた。
「今日の夕希、おかしいぞ。わけわかんね。図書室戻るわ」
 掴んでいた腕が遠くなる。
誰もいない教室から春斗が出て行ってしまう。
追いかけてずっとそばにいてその運命を変えたい。
でも静まっている教室で私はその場に泣き崩れるしかなかった。
もし仮に明日だとしたら今の会話が最後になってしまう。
別の日でも今日の春斗の話し方だと拒絶されてしまうかもしれない。
どうしたらいい?
返ってこない返事を心の中で待っていた。