名もない花のように生きる君へ

 私はどうしてこうなったか知れば何とかなると思っていた。
でも単純ではないことは今目の前の現実が教えてくれている。
「ないんだよ……」
 最初の言葉も聞き取れないほど小さな声を出す。
首をかしげる私を見た未来の春斗は苦くて切ない目を細めた。
「もう時間がないから。知っても無駄だよ」
「もう時間がない?」
 私の質問には単純ではないわからない答えしか返ってこない。
でもその答えがいいものではない。
わかっていた。
「君と同じ時を生きる時田春斗は、もうすぐ死ぬんだ」
 言葉も行動もない。
瞬きも呼吸も忘れて目の前にいる春斗を見ていた。
単純でも難しいわけでもない。
待っているのは悲しくて残酷な未来だった。
「待ってよ……」
 嘘を聞いている感覚だった。
だからこそ声が出せるんだろう。
「今の春斗は元気で悪いところは一つもない。病気じゃなかったらどうして?」
「事故だよ。いつも通りの交差点で僕は命を落とした。防げない現実の怖さを知ったよ」
 未来の春斗はポケットに手を入れて私に体を向ける。
「もうすぐいなくなる僕の来た理由なんて知ってもどうしようもないんだ」
 言葉に力はない。
もう残った力を使い果たしたように見えた。
それでも作った笑顔を見せて私の顔を見つめた。
「僕は許された時間を君に使った。だから君も今をしっかり生きてほしい。僕が授けた力を使って」
 わかりたくない。理解したくない。
でも言葉の意味は私にもわかってしまう。
全て待っているのは悲しいこと。
首を振って目を背けようとする。
それだけで未来が変わるなら私は何度でも首を振って春斗の手を掴む。
それが今の春斗でも未来の春斗でも。
気づけば未来の春斗は光と一緒に薄くなっていく。
「待って」
 掴もうとした手は物語で見たようにすり抜けていく。
掴むこともできないまま、私は春斗の未来にただ茫然としていた。