昼休みのチャイムが鳴り、私は自分が作った弁当を杏夏の机に持っていって杏夏と向き合う。
その横には春斗も買ってきたパンを片手に座っている。
三人で勉強をした日から毎日私たちは昼休みと放課後を一緒に過ごしている。
憧れていた夢のような状況。
それでも今は緊張せずに自然体でいられた。

 杏夏の弁当箱の中身は綺麗に彩られていてそれが毎日続いていることが何よりすごい。
「夕希、これちょうだい」
 横に座っている春斗は前にもあったような会話を始める。
「あんた自分の食べなさいよ」
 杏夏はまるで母のように春斗を叱る。
でもその会話に鋭さは感じない。
むしろ和やかな空気だった。
「お前も食べてみろよ。本当においしいから」
「レベル上げないで」
 春斗が私の作った卵焼きを絶賛してくれるのはありがたいが綺麗な弁当の持ち主である杏夏が私の卵焼きを食べるのは気が引ける。
「だって夕希の分なくなるじゃない」
「いや、杏夏が食べれるなら。味の保証は全くないけど……」
 苦笑いのような笑みを見せている間に春斗は一つ卵焼きを口に入れる。
「じゃあ一つもらうね」
 春斗を見て遠慮していた杏夏も卵焼きを口に入れる。
まるで審査をされているような感覚にもなるこの時間は緊張の裏に楽しさがあった。
「おいしい」
 杏夏は少し目を見開いて私を見る。
「本当?」
 杏夏は大きく頷いて「私も頑張ろう」と呟く。
「じゃあ、私も」
 そう言って杏夏は私の前に弁当を差し出す。
「夕希が好きなの食べていいよ」
 笑顔を向けてくれる杏夏は姉のようでいつでも安心と優しさを感じさせてくれる。
「これ少しもらうね」
 私がアルミ箔に入った煮物を指すと杏夏は優しく頷く。
一口分もらって口に入れると目が輝くのを自覚した。
「おいしい!」
「よかった」
 一人っ子で同じ時に食事をしてくれる人がいない私にとって杏夏の笑顔とこの時間は胸を温かくしてくれる。
棘で自分の心を守るようにその棘の先にあるものを拒んでいた私。
昔の自分に会ったら言ってあげたい。
棘を捨てることも大事だと。
「じゃあ俺も」
 春斗は私の前にペットボトルの紅茶を出す。
「ありがとう」
 その紅茶は買ったものとわかっていても笑みがこぼれてくるのは春斗からもらうものだから。