目を閉じても声は聞こえない。
目を開けて現実を見る準備はできた。
なら目を開けよう。
その時、先ほどまで感じなかった強い風と強い窓からの光。
目を細めながら私は見つめた。
膨らむカーテンはファンタジーの世界に入り込んだような演出をする。
光と風が治まるにつれ、シルエットが私には見える。
それが人だということ。男性であること。
「君は強いよ」
 懐かしいあの声。
どこかで聞いたことのある声。
温もりを背中で感じていなくてもわかる。
「強くないよ」
 会話している今を喜びたい。
でも不安はそれよりも先に口に出る。
「人は弱いんだ。それでも強いふりをしている。君は弱くても乗り越えられる強さを持った。挫折を味わうと人は二つに別れてしまう。君はきっと耐えられる強さを持ったよ。だから大丈夫」
 シルエットしか見えない。
でもいつもの声で言う言葉はいつの間にか全て理解することができるようになっていた。
でも誰が私を救ってくれたのか。
強さを教えてくれたのか。
知りたい……
「あなたの姿を見せて」
 沈黙の空間には風だけが舞い踊っている。
シルエットを映す光が弱まって私は駆け寄ろうとする。
でも、足を止めた。
鼓動が速くなる。
目の前にいる人物は私の心を知っているかのように、微笑んで目を見つめた。
「春斗」
 クラスにいた春斗が目の前にいる。
何も変わらない。
制服で、いつも少し崩れた着方をしている。
春斗がずっとここにいた?
でもそうだとしたら繋がらない。
「混乱するでしょ。だから見せたくなかった」
 目の前にいる春斗の声は壁に寄りかかって話していた時と同じ。
けれど実際に教室で話している春斗の声はもう少し低い。
「どういうことなの」
 瞬きも忘れ、今目の前にいる春斗を見つめた。
見つめ合う二人はそらさない。
私は目を見て考えた。
それでも何も出てこない私を知っているように目の前の春斗は微笑む。
「質問の答え。それは君もわかってる」
「わからないよ」
「君の未来を変えるために僕は来た」
 春斗は絶対に使わない『僕』という言葉。
容姿は一緒。
混乱にまた混乱という物体を流しこまれていく。