図書室の奥の廊下。
足を踏み入れれば先ほどまでの熱さを忘れる。
私は資料室の看板だけを見て静かに堂々と歩く。
けじめをつける。
私に足りないものを知るために。
あの温かい場所は少しずつ影を映し出している。
いつも通り、私は鞄を下ろして資料室の壁に寄りかかる。
温もりも光も感じない。
「ねえ」
 返ってこないのはわかっている。
でもどうしても伝えたかった。
「私に大切なもの、足りないものを教えてくれた。私の昔と現在だって変えてくれたのは自分の力じゃなくてあなたの言葉のおかげ。行動したのは私でも力をずっとくれていたのはあなたなの」
 返ってこない。でも、感情は止まらない。
「それでも私は不安なの。だから、教えてほしい。忘れてはいけないことを」
 私が話さなければ沈黙になるこの空間。
それでも本心を言えるようになったのはここが始まりだから。
私はここでもう一度始まりを作りたい。
「もうそろそろ姿を見せてよ……」
 目をつぶって静かに願った。
不思議な声を待っているように。