あの日から一か月が経った月曜日。
もう廊下も熱い。
薄い制服のシャツがまとわりついて気持ちが悪かった。
「夕希、今日も一緒に帰らないの?」
 こんなに暑い季節なのに顔に汗が出ていないのはこまめに汗を拭いていつでも綺麗な状態にしている杏夏の女子力だとわかる。
「うん。ごめんね」
 鞄に教科書を詰めていた手を止める。
「もしかして時田と付き合ってるの?」
 私の目を見ない杏夏は本気で聞いているのだろう。
からかっていた時の目ではない。
「付き合ってないよ?」
「だっていつも月曜日に一緒に帰らないじゃない」
 私は気づいていなかった。
自分のことに必死で、杏夏がどの立場にいるのか考えていなかった。
杏夏は春斗が私に好意を持っていると考えている。
それなのに春斗の当番である月曜日だけ私も一緒に帰らないとなれば杏夏は不安だったに違いない。
それでも理由は言えない。
けれどもこれ以上何もなければ私はまた執着して失敗するかもしれない。
大切な人を傷つけるかもしれない。
だったらけじめをつけなければならない。
「杏夏」
 杏夏の目は少しうるんでいた。
その目を見て覚悟を決める。
「もう今日で終わりだから」
「え?」
 もう終わり。
今日、声が聞けたとしても聞けなかったとしても、いつもの月曜日の放課後に私は執着しない。
私が孤独を感じた時、そばにいてくれた人を大切にしなければならないから。
「来週からは月曜日も一緒に帰る。でも今日はまだ終われない」
 具体的なことは言えない。
でも杏夏に寄り添うために近い言葉を使いたい。
杏夏は理解したことを示す頷きを見せて私に手を振った。