変わらない日々。
その中で変わったのはもうあの不思議な声が聞こえないこと。
あの後何度行っても返事は返ってこない。光も温もりもない。
あの時言った「僕はもうすぐいなくなる」はもう現れないということなのか。
姿も何も知らない私。
知っているのは声だけ。
それなのにあの日からずっとあの場所を気にしている。
「き、夕希!」
 私の名前が聞こえて何があったかわからない景色から勉強道具が並べられたはっきりとした世界に変わる。
横を見れば杏夏が心配そうに見つめている。
「夕希、体調悪いの?」
「え、違う違う。ちょっと考え事」
 私が笑っても杏夏は顔色を変えずに私を見つめる。
でも今回ばかりは春斗にも杏夏にも教えることができない。
自分の問題を解決するには自分の力も必要なのだから。
毎回二人を頼ってばかりいられない。
そう思いながらもいつもあの声に助けをもらい、問題というものでもない。
私は二人にはわかってしまうと知っていてもその時は微笑むしかなかった。
私の顔を見て二人は理解したように「そっか」と呟いて頷く。
「でも……」
 頷いていた春斗がノートに視点を変えながら真剣な顔をする。
「何かあったら頼れよ」
 短い言葉だった。
でも苦しかった胸を少し軽くしてくれた。
「ありがとう」
「おう」
 そのままペンを走らせる春斗。
心に呼吸が必要だとしたら、私はいつも呼吸ができなかった。
でも春斗は呼吸をしやすくしてくれる。
最初の出会いが春斗で始まり、そこから杏夏と出会い、母と再会し、私は呼吸をすることが楽になった。
いつか今までのことを返せる時が来たら返したい。