「あの、課長。そろそろ私も、ご挨拶させてもらっていいですか?」

 その時、叔父さんの背後に控えていた女性が、やんわりと声を上げた。鈴を転がしたような、綺麗でよく通る声だ。声量はそれほどでもないのに、耳に心地よく響く。

「ん? ああ、済まないね、清森君。つい、私だけではしゃいでしまって」

 叔父さんが、「これは失敬」と頭に手をやりながら場所を譲る。
 入れ替わるように前に進み出た女性は、僕らに向かって柔らかく微笑んだ。

「こうして直接会うのは、初めてね。清森陽菜乃です。真菜の姉で、この図書館の司書をしています。よろしくね」

 陽菜乃先輩が右手を差し出す。姉妹というだけあって、真菜さんとよく似た顔立ちだ。ただし、真菜さんよりも髪が長くて、眼鏡をかけている。その長い髪をふんわりとした三つ編みにしてあり、優しい印象を醸し出している。子供とかに人気がありそうだ。

「書籍部現部長の栃折奈津美です。この度は、取材に応じていただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、私が作った書籍部を守ってくれてありがとう。栃折さんみたいなかわいい後輩ができて、私もうれしいわ。今日から三日間、楽しくいきましょう」

「はい、よろしくお願いします! それで、こちらの男の子が……」

「副部長の一ノ瀬悠里です。よろしくお願いします、先輩」

「『先輩』か……。何だかこそばゆいわね。『先輩』なんて、もう何年も呼ばれてないから。ちょっと恥ずかしいし、そんな畏まった呼び方しなくてもいいわよ」

「じゃあ、真菜さんと合わせる感じで、陽菜乃さんとお呼びしていいですか?」

「うん。じゃあ、それで。よろしくね、一ノ瀬君」

 僕らもそれぞれに名乗りながら、順番に握手を交わす。
 それにしても、やっぱりこの人、真菜さんのお姉さんだな。先輩って呼んだら、まったく同じ理由で正された。

「それじゃあ、先にインタビューとやらを終えてしまおうか。奥の小会議室を押さえてあるから、そこでやってくるといい」

「ご協力ありがとうございます、一ノ瀬さん」

「いや、このくらいどうということはないよ。インタビューが終わったら職場体験に移るけど、基本的に清森君の指示に従って動いてくれ。それと、昼休みは……」

 叔父さんが、テキパキと指示を飛ばしていく。きっと、学校の課外授業とかで職業体験に来る中高生も多いのだろう。手慣れた感じだ。
 こちらからすれば、安心感があって好感度アップだ。やっぱりこの図書館はいいな。

「以上で、私からの説明は終わりだ。あとは清森君に任せるから、何かあったら呼んでくれ」

「わかりました」

 陽菜乃さんに「任せたよ~」と軽く放り投げ、叔父さんはどこかへ去っていった。
 相変わらずノリが軽いなぁ。でもまあ、あれでも課長だから、きっとやることがたくさんあるのだろう。正月に家に来た時にも、『会議や打ち合わせが多くて肩が凝る。昇進はするもんじゃないな』ってぼやいていたし。
 そう考えると、むしろ僕らのために説明に来てくれたことを感謝すべきか。ありがとう、叔父さん。