「もう! 悠里君のせいで、大恥かいちゃったじゃない!」

「あはは、すいません。つい、いつものノリで……」

 先程の赤っ恥が、よほど堪えたのだろう。思いっきり声を落として、奈津美先輩が文句をぶちまける。
 さすがに僕もさっきのはやり過ぎたと反省しているので、今は素直に謝っておいた。
 けれど奈津美先輩は怒りが治まらない様子で、まだ頬を膨らませている。

「というか、さっきの『奇人変人』ってなんなのよ。あの言い方じゃあ、まるで私がおかしな人みたいじゃない!」

「えっ!」

 奈津美先輩の発言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
 やばい。今のは素で驚いてしまった。
 でもまあ……うん。この人は、こういう人だよな。天然というか、ある意味天才型というか、むしろ天災型というか……。

「む~。何よ、その世にも稀な珍獣を見るような顔は」

「いや~、今のは素で驚い……って、ヤバ!」

 驚きで頭が緩んでいたため、ポロッと本音が出てしまった。あるまじき失態だ。
 僕の反応を見た奈津美先輩は、もちろんさらに怒り心頭だ。

「悠里君、ちょっと真面目にお話しましょうか。主に、悠里君の先輩に対する態度について」

「あはは。あー……先輩、あんまり怒っていると、眉間にしわができちゃいますよ~」

「誰のせいだと思っているの!? もしも本当にしわができたら、悠里君に責任取ってもらいますからね!」

 微妙に意味深なことを言いながら、眉を逆立て口をへの字にした奈津美先輩が迫ってくる。奈津美先輩の黒曜石みたいな瞳に、愛想笑いを浮かべた僕の姿が見える。
 というか奈津美先輩、顔近過ぎですってば! 何で説教なのに、そんな近づいてきますか! 頭に血が上って、周り見えなくなり過ぎじゃないですか?

「ああもう、すみませんでした! 今のは僕の失言です。謝りますから許してください」

 奈津美先輩の肩を押しやって席に座り直させ、とりあえずこの危機的状況から脱出する。心臓に悪いなぁ、もう……。

「本当に? 本当に反省してる?」

「ええ、もう全力で反省しています。ホント、変なこと言ってすみませんでした」

 僕がもう一度謝ると、奈津美先輩も一応は納得してくれたらしい。助かった。

 ただし、まだ「本当に悠里君は、デリカシーが欠けているわ」なんてぶちぶち文句を言っているけど……。うーむ、かなり根に持っていらっしゃる。

 まあ、今回は僕も口が過ぎたし、甘んじて受け入れるとしよう。
 ここから目的地の停留所に着くまで、僕は延々と奈津美先輩のお小言を聞き続けたのだった。