と言っても、僕がその女生徒の正体に気づくのは、もう数分先のことだけれど。
校門の支柱に寄りかかっていたその人は、僕の姿を見るなり微笑みを浮かべた。
背中まで伸びるまっすぐな黒髪に、子供の好奇心と大人の優しさを湛えた黒い瞳。肌の色は抜けるように白いが、頬はほんのり赤みが差している。
第一印象は、上品な日本人形といったところか。可憐と形容される笑顔を、僕はこの時、初めて見たような気がした。
支柱から体を離した彼女は、まっすぐ僕の方へ足を向ける。そして、僕の三歩手前で立ち止まった。夕日に煌めく絹糸のような黒髪が、春風になびいてサラリと揺れる。
胸元の校章の色は赤、どうやら二年生のようだ。
「――一ノ瀬悠里君」
綺麗な透き通る声で、彼女が僕の名前を呼ぶ。どこかで聞いたことがあるような、心に馴染む声の響きだ。
清水が染み渡るように、疲れていたはずの心が潤っていく。不思議な感覚を覚えて僕が立ち尽くしていると、再び彼女が口を開いた。
「一ノ瀬悠里君、君の夢は何?」
彼女の声が、僕の心の内側をくすぐる。まるで音叉のように、彼女の言葉に僕の心が共鳴する。
気が付けば、呆然と立ち尽くしていた僕は、自然と言葉を……心に秘めた自分の夢を口にしていた。
「僕の夢は……図書館司書になることです」
図書館で働く叔父さんの姿を見て、幼い頃から抱いていた僕の目標。小学生の時の出来事を経て、絶対に叶えなければと心に誓った夢。
なぜ僕は、誰とも知れない相手にそんな大事な夢を語っているのか。頭の片隅で、僕の理性が首を傾げている。
けれどこの時、僕は確かに感じたんだ。
なぜかはわからないけど、こうすることが正しいんだって。彼女には、はっきりと自分の夢を告げるべきなんだって。
「そう……。――よかったわ」
僕の答えを聞いたその人は、安心した様子で息をつき、うれしそうに笑った。
そして、僕に向かって手を差し出しながら、声を弾ませてこう言ったのだ。
「ようこそ、浅場南高校書籍部へ。私は、あなたを歓迎するわ!」
それが僕と彼女――栃折奈津美先輩との、二度目の出会いだった。
校門の支柱に寄りかかっていたその人は、僕の姿を見るなり微笑みを浮かべた。
背中まで伸びるまっすぐな黒髪に、子供の好奇心と大人の優しさを湛えた黒い瞳。肌の色は抜けるように白いが、頬はほんのり赤みが差している。
第一印象は、上品な日本人形といったところか。可憐と形容される笑顔を、僕はこの時、初めて見たような気がした。
支柱から体を離した彼女は、まっすぐ僕の方へ足を向ける。そして、僕の三歩手前で立ち止まった。夕日に煌めく絹糸のような黒髪が、春風になびいてサラリと揺れる。
胸元の校章の色は赤、どうやら二年生のようだ。
「――一ノ瀬悠里君」
綺麗な透き通る声で、彼女が僕の名前を呼ぶ。どこかで聞いたことがあるような、心に馴染む声の響きだ。
清水が染み渡るように、疲れていたはずの心が潤っていく。不思議な感覚を覚えて僕が立ち尽くしていると、再び彼女が口を開いた。
「一ノ瀬悠里君、君の夢は何?」
彼女の声が、僕の心の内側をくすぐる。まるで音叉のように、彼女の言葉に僕の心が共鳴する。
気が付けば、呆然と立ち尽くしていた僕は、自然と言葉を……心に秘めた自分の夢を口にしていた。
「僕の夢は……図書館司書になることです」
図書館で働く叔父さんの姿を見て、幼い頃から抱いていた僕の目標。小学生の時の出来事を経て、絶対に叶えなければと心に誓った夢。
なぜ僕は、誰とも知れない相手にそんな大事な夢を語っているのか。頭の片隅で、僕の理性が首を傾げている。
けれどこの時、僕は確かに感じたんだ。
なぜかはわからないけど、こうすることが正しいんだって。彼女には、はっきりと自分の夢を告げるべきなんだって。
「そう……。――よかったわ」
僕の答えを聞いたその人は、安心した様子で息をつき、うれしそうに笑った。
そして、僕に向かって手を差し出しながら、声を弾ませてこう言ったのだ。
「ようこそ、浅場南高校書籍部へ。私は、あなたを歓迎するわ!」
それが僕と彼女――栃折奈津美先輩との、二度目の出会いだった。