百六十七センチ、三十八キロ。

 それが、あとから教えてもらった、出会ったときの木村亜子の身長と体重だった。

 見た瞬間、心臓を射抜かれてしまった。

 光を帯びた黒髪、瀬戸物のような白い肌。

 憂いを湛えた大きな目、ヨーロッパ風の高い鼻。品のある涼しげな口元。

 そして、モデル顔負けのスタイル。

 こんな子が、どうして普通の喫茶店でウエイトレスなんかしているんだろうと、不思議でならなかった。

「きみ、バイト?」

 つい訊いてしまった。なにも時給何百円で働かなくても、その美貌でいくらでも稼ぐ道がありそうなのに。

「はい、さようでございます」

 やや甲高い声で、まるで深窓の令嬢のように、そう言った。

「若そうだね。大学生?」

「いえ、まだ高校なんでございます」

「ホントに? すごく大人びてるね」

「お褒めにあずかり恐縮でございます」

「将来はモデルだね」

「めっそうもございません」

「モデルになったら、きっと日本一、いや、宇宙一になれるよ」

「オホホ。お坊っちゃまは、とてもお口がお上手ですね」

「おぼ……エヘン。ぼくは三十超えてるけど」

「た、大変失礼をばいたしました。どうかこのご無礼、平にご容赦を」

 腰を折って深々と頭を下げて謝るので、ぼくはまわりの目を気にして言った。

「別に謝らなくたっていいよ。いつものことだから。ところできみ、将来を視てもらいたくはない?」

「将来、でございますか?」

 令嬢が、心を惹かれたのがわかった。ぼくはすっかり嬉しくなり、

「うん。ぼくの知り合いに、なんでも視えるアメリカ人がいるんだ。彼女に頼めば、たとえばきみがモデルになったらどのくらい売れるかとか、なんでも教えてあげられるよ」

「まあ」

 彼女は白く美しい手を口に当てて、大きな目をさらに大きく見開いていたが、

「それはぜひ、お伺いいたしたく存じます」

 にっこり笑って言った。その瞬間、ぼくの目に、バラがいっせいに咲くのが見えた。まさしく女神の微笑だ。

 バイトは午後六時までで、そのあと一時間くらいなら時間があるという。ぼくの探偵事務所まで来るかいと訊くと、彼女はうなずいた。

 ぼくはふわふわと宙に浮きながら、喫茶店〈ルイーズ〉を出た。