私は彼が急いで行くので、私より足が速い
コバさんの速さにはついていけなかった。
 待ってよ―!
 私はコバさんに一生懸命ついていき、古本
屋『松岡』に着いた。 
ガラっとドアを開けた。
「ひよっち、なんでだよ!」
開けると、コバさんが怒鳴り声を上げてい
た。
 松岡さんは両手で腕を組み、黙って椅子に
座っていた。
「……落ち着け、コバ。話したいことは分か
る。陽琉」
 松岡さんは私のことに気づいたのか、私の
方を見て言った。その場所には、コバさんと
松岡さんしかいなかった。
 昇哉さんはいなかった。多分松岡さんは、
昇哉さんに今日は帰った方がいいかもしれな
いですねと適当なことを言い、帰らせたのだ
ろう。
「コバさん、松岡さん」
 コバさんは、怒り心頭に怒っていた。
「陽琉、コバから聞いたか」
「はい」
「……コバ、陽琉。聞いてくれ」
「なんだよ! ひよっちが、あんな奴に夢を
叶えるなんて思わなかったよ。本当になんで
だよ! ひよっち。俺、わかんねぇ―よ!」
 テーブルをバンと叩いて、コバさんは猫背
気味で椅子に座った。松岡さんは、目を瞑っ
てまた目を開き静かに口を開いた。
「コバ、陽琉。俺はね、夢を叶えるって。簡
単なことじゃないんだと思う。いつも、俺は
コバ達に夢は叶うって言っているけど。本当
に簡単じゃない。でも、夢は叶うって信じる
ことが大切だと思う。俺は夢っていうのはど
んな形にしろ叶えたいと思うんだ。だから、
俺はネコカフェを作りたい!」
「……ひよっち」
 真剣な目をして、コバさんは松岡さんを見
ていた。
「松岡さん」
 私は立っていたので、コバさんの左隣に座
った。
 松岡さんは、コバさんの真正面に座ってい
たので私はコバさんと松岡さんの真ん中に座
った。
「夢を叶えたいっていう、ひよっちの気持ち
は分かる。でもなんであいつなんかに……」
 コバさんは、右手を握りしめて私が見たこ
とがない怖い表情をしていた。怒りというよ
りは憎しみな表情を浮かべていた。
「コバ。言いたいことは分かってる。俺は夢
を叶えるならこのチャンス逃したくない。も
しかしたら、失敗するかもしれない。でも、
一パーセントでも信じてみたいんだ」
 私達を交互に見ながら今までにない真面目
な顔で彼は言った。