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主人公は20歳の女子大生、佳澄。その相手は、中高と演劇部で一緒だった、今は違う大学に通う同い年の男子、和志。そしてもう1人、男子のサークルの後輩である19歳の女子、陽菜。
初夏、互いの実家近くの駅で待ち合わせる佳澄と和志。佳澄は決意を固めた表情で和志を待っている。彼女のスマホに友人から、告白を応援するLIMEが届いた。やがて和志が到着し、大きな駅まで電車に乗って、2人で街を歩き出す。
他愛もない話をしながら、前に会った時の話になり、佳澄は前々回の時のことを回想する。和志が一人暮らししている場所から近い、大きな駅で待ち合わせていたら、彼に陽菜がくっついてきた。和志に促されてすぐに帰ったけど、彼女は明らかに和志に好意を持っている。
街でウィンドウショッピングをしているときも、ランチを食べているときも、佳澄の頭にはつい陽菜のことが浮かんでしまう。
この街に和志と来たことがあるんじゃないか、2人で歩いたりしたんじゃないか。妄想の中で楽しげに過ごしている、和志と陽菜。
不安を払拭するように、佳澄が「久しぶりにあそこいかない?」と提案。電車に乗り、自然の溢れる渓谷に着いた。
演劇部で役者である彼女が、大道具担当だった彼を連れていつも練習していた秘密の場所。
当時制服で台詞を叫んでいたのを思い出し、再現してみせると、和志は小さく拍手する。「やっぱりお前の演技は自然だよなあ。前にエイプリルフールに嘘つかれたじゃん? 俺全然見抜けなかったもん」
そこからまた思い出話になり、お互いが当時付き合っていた相手の話にもなる。小さな愚痴を、よく言い合っていた。今は2人とも、相手はいない。
告白のチャンスだと佳澄が意を決したその時、彼女は気付いていないものの、和志もまた心を決めたような表情になっている。
そして和志の方が先に口を開いた。
「いやー、びっくりしたよ、後輩に告白されちゃって」
その言葉に、佳澄は驚きでしばらく沈黙する。
その後、諦めたような柔和な表情になり、笑顔で和志を応援する。
「よし、じゃあ帰ろっか。あ、そうだ。せっかく来たから、私ちょっと役の練習してから帰ろうかな」
「どんな役やるんだ?」
「ふふっ、秘密。舞台招待するから、その子と一緒に見に来てよ。じゃあ向こうでやるから、またね。また遊ぼ!」
そう挨拶して山のさらに奥まで走っていく佳澄。
彼は友人に電話をする。
「ダメだった。気引こうと思ったけど、途中で普通に応援された。やっぱり友達扱いなのかな。 うまくいかないもんだなー!」
彼女は全力で走り、行き着いた先の河原で1人、川に石を投げながら大泣きする。
最後にモノローグ。
「大丈夫、今度も、きっと見抜けない」
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