***
「それじゃいきます! ようい……アクション!」
15日水曜日の放課後。俺達はホームルームが終わってすぐに移動し、キャストと一緒に石名渓谷に来ていた。
渓谷から少し歩いたところにある、クローバーの草原。「ここ、ステキですね!」と興奮する佳澄が横になって、撮影を進めていく。
「最後にここで寝転んで泣く、っていうの、青春っぽくていいよね」
「分かる! 自分しか知らない秘密の場所でひっそり泣いてるって感じ、アタシも好き!」
四つ葉をキョロキョロと探す和志と陽菜。撮影は佳澄だけでも良かったけど、「どんな風に撮り直すのか見てみたいです」と言われたので、おなじみの7人でここに来た。
「よし、最後に嗚咽のシーンね? 涙は無理に流す必要ないから。モノローグも入れるから、ちょっと長めに撮るわよ」
「香坂、準備オッケーだ」
三脚を外し、カバンの上にカメラを固定する颯士さん。
クローバーに埋まる彼女を、平行な低いアングルから撮る。
『…………ふっ……ふっうっ……うう…………うあああ…………』
「……カット! チェックします!」
俺はレフ板を、涼羽はマイクを持ったまま、グループの後ろからモニターを眺める。久しぶりの撮影はバタバタだけど、やっぱり楽しかった。
「よし、これもオッケー。改めて、クランクアップです!」
「っしゃあ! お疲れ様でした、とりゃっ!」
「あ、颯士さんズルい! 俺も!」
「アタシもやる!」
そのまますぐに撤収の予定が、ゴロゴロとクローバーの草原を転がり始めた颯士さんに触発され、結局全員が「ひゃっほー!」とクローバーに囲まれて横になる。
まだ夕焼けの「ゆ」の字も見えない、抜けるような高い空に手を伸ばすと、ライトブルーのキャンパスに自分の手を描いたように見えた。
愛理が泣いていたあの場所で、俺達は笑っている。
彼女がどんな理由で涙を流したのか俺には分からないけど、もし僅かな幸福で上書きできるなら、そうしてあげたい。
彼女がこの世界で悲しい思いをした場所は、川だってここだって、全部上書きしてあげたかった。
「はーい、オフショット。撮影お疲れさまでした」
起き上がった桜さんが黒髪についた草を払いながら、スマホで動画を撮っていく。そのカメラは、俺にも向けられた。
「このラストカットの立役者、キリ君です! 一言どうぞ」
またそんなはじけるような笑顔を見せて、急な無茶ぶりで楽しませてくれて。
本当に困った人で、そして、素敵な人だ。
「映画作るの、楽しいです。来年も絶対この部活存続させないと。涼羽と一緒に頑張ります!」
「おっ、スズちゃん、大役を任されたわね!」
水を向けられた涼羽は、真顔のまま2、3回小刻みに頷く。
「……桐賀君、頑張って付いてきてね」
「クール! クール&ビューティー! 葉介、必死で付いていけよ」
「おわっぷ、颯士さん!」
意味の分からない颯士さんのタックルに、桜さんが「転がれ! 端っこまで転がりスピード勝負!」と意味の分からない煽りを入れ、カメラを回す。
それを、涼羽が呆れたように、キャストの面々が楽しそうに見ている。
こういうのを、青春というのだろう。愛理もきっと、こんな風に夢中になっていたんだろう。
「それじゃいきます! ようい……アクション!」
15日水曜日の放課後。俺達はホームルームが終わってすぐに移動し、キャストと一緒に石名渓谷に来ていた。
渓谷から少し歩いたところにある、クローバーの草原。「ここ、ステキですね!」と興奮する佳澄が横になって、撮影を進めていく。
「最後にここで寝転んで泣く、っていうの、青春っぽくていいよね」
「分かる! 自分しか知らない秘密の場所でひっそり泣いてるって感じ、アタシも好き!」
四つ葉をキョロキョロと探す和志と陽菜。撮影は佳澄だけでも良かったけど、「どんな風に撮り直すのか見てみたいです」と言われたので、おなじみの7人でここに来た。
「よし、最後に嗚咽のシーンね? 涙は無理に流す必要ないから。モノローグも入れるから、ちょっと長めに撮るわよ」
「香坂、準備オッケーだ」
三脚を外し、カバンの上にカメラを固定する颯士さん。
クローバーに埋まる彼女を、平行な低いアングルから撮る。
『…………ふっ……ふっうっ……うう…………うあああ…………』
「……カット! チェックします!」
俺はレフ板を、涼羽はマイクを持ったまま、グループの後ろからモニターを眺める。久しぶりの撮影はバタバタだけど、やっぱり楽しかった。
「よし、これもオッケー。改めて、クランクアップです!」
「っしゃあ! お疲れ様でした、とりゃっ!」
「あ、颯士さんズルい! 俺も!」
「アタシもやる!」
そのまますぐに撤収の予定が、ゴロゴロとクローバーの草原を転がり始めた颯士さんに触発され、結局全員が「ひゃっほー!」とクローバーに囲まれて横になる。
まだ夕焼けの「ゆ」の字も見えない、抜けるような高い空に手を伸ばすと、ライトブルーのキャンパスに自分の手を描いたように見えた。
愛理が泣いていたあの場所で、俺達は笑っている。
彼女がどんな理由で涙を流したのか俺には分からないけど、もし僅かな幸福で上書きできるなら、そうしてあげたい。
彼女がこの世界で悲しい思いをした場所は、川だってここだって、全部上書きしてあげたかった。
「はーい、オフショット。撮影お疲れさまでした」
起き上がった桜さんが黒髪についた草を払いながら、スマホで動画を撮っていく。そのカメラは、俺にも向けられた。
「このラストカットの立役者、キリ君です! 一言どうぞ」
またそんなはじけるような笑顔を見せて、急な無茶ぶりで楽しませてくれて。
本当に困った人で、そして、素敵な人だ。
「映画作るの、楽しいです。来年も絶対この部活存続させないと。涼羽と一緒に頑張ります!」
「おっ、スズちゃん、大役を任されたわね!」
水を向けられた涼羽は、真顔のまま2、3回小刻みに頷く。
「……桐賀君、頑張って付いてきてね」
「クール! クール&ビューティー! 葉介、必死で付いていけよ」
「おわっぷ、颯士さん!」
意味の分からない颯士さんのタックルに、桜さんが「転がれ! 端っこまで転がりスピード勝負!」と意味の分からない煽りを入れ、カメラを回す。
それを、涼羽が呆れたように、キャストの面々が楽しそうに見ている。
こういうのを、青春というのだろう。愛理もきっと、こんな風に夢中になっていたんだろう。