怖い噂話も経験したら大したことがない、なんてとの同じように、実際には大した写真はなかった。文化祭ではしゃいでいる俺、体育祭で仮装しているクラスメイト、休み時間の悪ふざけ。そんな日常が切り取られている。

 そして更に遡っていくと、2人で渓谷に行ったときの写真が出てきた。久しぶりに見る愛理の顔は、やっぱり記憶のままで、黒髪のマッシュショートに丸顔、大きな目と口の犬っぽい、可愛い顔だった。


「…………あれ?」

 一覧で見ていくと、渓谷の写真に混じって、動画があった。サムネイルは愛理になっている。こんなもの、撮っただろうか? 記憶にない。

 おそるおそる再生してみる。そこには、俺のスマホを手に持ち、渓谷の土手で自撮りしている彼女が映っていた。


『葉介が川で遊んでる間に、勝手に借りてます!』


 あいつ、こんなことしてたのか。当時も写真見返すこと少なかったから、全然気が付かなかった。

『あのね、葉介』

 言葉に迷うようにやや躊躇った後、彼女は画面越しにペコッと一礼した。



『いつも映画でいっぱいいっぱいで、あんまり遊べなくてごめんね』


『でも、映画作るの、すっごく好きなんだ。みんなで騒ぎながら撮るのも楽しいけど、自分なりの世界を表現するのが楽しいからね。いつか葉介にも知ってもらえて、伝わったらいいなあ』


 そして最後に、浮園愛理は、まだ命が終わることを知らない彼女は、頬を掻きながら冗談っぽく笑ってみせる。


『もし、愛想尽かしたら、他の人のところに行ってね、なんて。またね!』



 ポタッ、と数滴の水に濡れただけで思うように操作できなくなる。スマホってのは不便だ。


 タオルケットで顔を拭き、ガバッと立ち上がる。よれた部屋着用のTシャツを脱ぎ、制服のシャツに袖を通す。

 今から行っても、着く頃には部活は終わっているだろう。だから別に明日でもいいのに、そのはずなのに、忘れてきた脚本と絵コンテを取りに行きたい、すぐに手元に置きたいという衝動が自分を突き動かす。



 この喪心の中で、直接関係のなかったもう1つの想いに、嘘で固めたフタをするところだった。

 俺も、桜さん達と一緒に映画を完成させたい。


 始めは、愛理のことをもっと知れればと思って参加したけど、今はもう、俺自身も映画制作を好きになっているから。


「学校行ってくる!」


 親の返事も聞かずに家を飛び出し、夜の入り口の町を走って駅まで向かった。