「よし、じゃあ見やすいように、と」

 DVDや脚本が置かれている棚の右下から大きな液晶モニターを持ってくる。
 それをケーブルで接続すると、俺達3人がノートパソコンを覗きこまなくても済むようになった。

「じゃあオープニング除いて、カット3から順番にやっていこう。一回、カット5まで単純に繋いでみるぞ……はい、こんな感じ」


「ううん……こうやってみるとカット3から映像が平板だなあ。スズちゃん、どう思う?」
「カット4って別アングルの方がいいかもって何テイクか撮ってますよね?」

「あ、確かに撮りましたね。颯士さん、それ見せてもらっていいですか?」
「いや、でも待ってキリ君。上映開始でいきなりアングルがコロコロ変わるのも見てる人疲れるかな……」

「話してる人にフォーカスしてるだけだから自然なアングル切り替えだし、それはないんじゃないですかね?」
「繋ぎ目短くすれば、オレだったら見やすくてテンポ良い作品って感じるな」


 ここに来る前は、そして入部して絵コンテができた直後でさえ、こんな風に1つ1つに時間をかけるなんて思わなかった。

 今は分かる、どの部活も、これが楽しいんだ。
 特訓したパスがうまく繋がるように、練習したハーモニーがぴたりと揃うように、「なんでそこまで」と思えるほど時間と情熱を費やす。その積み重ねが、俺達の「きっと見抜けない」を1秒、1分と形作っていく。


「はい次! このカット」
「……うん、なるほど。これさ、映像だけ早めに切って次のカットに繋げちゃう?」
「ワタシもそれ考えました。早めに佳澄の嬉しそうな表情見せたいなって。夏本さん、一回やってもらっていいですか?」


 こうして、1カットに数分、長い時は10分かけていくうちに、窓の外では月と星のデコレーションを付けた夜が降り始めた。



 ***



「桐賀君」

 翌日部室にいくと、すぐに涼羽から声をかけられた。
 そういえば今日は七夕。こんなに快晴なら各地でやるイベントもさぞ盛況だろうな、と差し込む陽光に目を細める。

「今日の前半、SEとBGM選ぶの手伝ってくれる?」
「あいよ、音声の仕事だな」

 彼女はこくんと頷き、スクールバックからかなり小さいパソコンを取り出した。そこに颯士さんから受け取った機器を付けて、中のデータを移す。

「何だこれ、動画ファイル?」
「そう、ほら」
「おおっ!」

 再生されたその映像は、昨日編集が終わったカット。涼羽が音声の作業をやりやすいように準備してくれたらしい。

「こっちをやってる間に、向こうも編集進められるからね」
「そっか。ところでBGMって普通にJ-POPとか使うのか?」
「ううん、コンクールに出す作品は著作権の関係で使えないわ。でもフリー音源のサイトがあるからそこで幾らでも選べるの」

 そう言って、WEBサイトを見せてくれる。
 曲のトーンや楽器の音、曲の長さで絞り込める検索窓の上に「映画やゲームに自由にご利用ください」と大きく白抜きで書かれていた。


「へえ、楽曲9000曲かあ……9000曲!」
 セミの声ですら十数曲だぞ。ピッタリの曲探すうちに夏が終わっちゃうよ。

「そんなにBGM入れるシーンないけどね。全部で6~7曲じゃないかな? でもさすがに1曲ごとに吟味してられないから、シーンごとに候補の曲複数ピックアップして、4人全員で話し合って決める形になると思う」
「オッケー。で、今日は何からやるんだ?」

「一旦SEを仮決めしてるけど、それで問題ないか確認するわ。一番始めは……佳澄と和志の待ち合わせするところ。桐賀君の大好きなセミよ」
「出た、セミ! 俺はこの夏でセミの鳴き声博士になれそうだな」
「頑張ってね、セミマスター」

 真顔で応援しつつ、スマホのジャックにスピーカーを繋げる。

「候補はアブラゼミ3ね、映像と同時に流すわ」

 そしてまた俺達は、クーラーのない部室で窓を開け放ち、セミの音を大量摂取して余計に暑苦しくなったのだった。