「おお、来たな! 期待の新人!」
デスクでパソコンをカタカタ打っていた男の人がグッと立ち上がり、グリーンのネクタイの先端を揺らしながらトットッと跳ねるように俺の前まで来た。
「夏本颯士、香坂と同じ3年だ。よろしくな」
ゴツゴツとした大きな手を差し出す。ガッシリした体型、やや見上げるくらいの身長は180は超えているだろう。
髪は俺より少し短くて、前髪を上げて額が見えるようになっている。かなり黒に近い茶色だけど、染めているわけではなさそうだ。
「桐賀葉介です、よろしくお願いします」
「葉介ね、呼びやすくていいな。オレのことも名前呼びでいいぞ」
髪と同じで顔立ちも爽やか。薄い唇に、高い鼻、一重で僅かにつり目。スポーツマンのような感じの先輩だ。
笑顔に少しだけギラギラした感じが見えるのもスポーツマンっぽい。
「主な担当はカメラと編集だ。まあこの人数だから、他のこともやるけどな」
「あ、やっぱり担当が決まってるんですね」
ドラマも映画も、それぞれ仕事が決まってるもんな。
「ちなみに香坂が監督だぞ」
「え、桜さん監督なんですか!」
驚きの声をあげると、颯士さんは「そうそう」と深く頷く。
「一番エラい人だからな、敬えよ」
「やめてってソウ君。そんなんじゃないから」
呆れたように首を振って見せる桜さん。でも、監督ってすごいな。
女子学生の監督……知り合いにいないわけではないけど。
「っと、もう1人紹介しないとね。おーい、スズちゃん」
スズちゃんと呼ばれた女子は、さっきからずっと俺に背を向けるようにスツールに座ったまま、赤いヘッドホンをして小さく体を揺らしている。
これは、聞こえて……ない……?
「もう、また大音量で聞いてるな。スーズーちゃん!」
桜さんが叫ぶと、ようやく彼女はこちらを向く。そして俺を見てびっくりしたようにクッと体を退いた。
ワインレッドのリボン、ってことは同学年か。
「さっきLIMEで連絡した、部員の候補だよ」
「桐賀葉介です、よろしくおね——」
言いかけた俺は、ヘッドホンを外しながら立ち上がった彼女を見て声を止める。
代わりに口から出てきたのは、「あ……」という小さな驚嘆の呟きだった。
「何、知り合い?」
俺が「そういうわけじゃ」と否定する前に、彼女はふるふると首を振った。
「月居涼羽です。同じ2年生、よろしく」
小さい声で挨拶する彼女に、俺もタイミングを合わせてお辞儀をした。
身長は160くらいだろうか。女子なら決して低くないけど、桜さんも颯士さんも高いので、細身な体型も相俟って小さく見える。
大きくてやや切れ長の目に小さい鼻と口で可愛い顔立ちだけど、割とクールな印象。今もそうだけど、あんまり笑わないタイプなのかもしれない。
特徴的なのは髪。色は明るい栗色で、耳は隠れる程度、前髪は眉毛の下までというショートヘア。少しずつ落ち始めた陽の光に照らされて、鮮やかに輝いている。
確か、2つ隣のクラスだったはず。この栗色の髪と、朝や放課後にいつも付けている真っ赤なヘッドホンがやけに印象的で、見かける度に「静かそうだけど目立つ人だなあ」とチラ見していた。
そうか、てっきり軽音楽部か何かだと思っていたけど、ここに入ってたんだ。
「あ、の……月居さんは担当って……?」
「ワタシ? 音声と照明。特に音声が好きね」
斜め下に目線を下げながら、ややぶっきらぼうに答える月居。音声と照明か。裏方が好きというのが、見た目のイメージ通りだ。
「で、部長の私が、監督や脚本を担当してる香坂桜。以上3人、小豆里高校、映画制作部にようこそ!」
じゃーん、と効果音が付きそうなほど右手を広げる桜さん。颯士さんが呼応するように、「ようこそ!」と掛け声を重ねた。
デスクでパソコンをカタカタ打っていた男の人がグッと立ち上がり、グリーンのネクタイの先端を揺らしながらトットッと跳ねるように俺の前まで来た。
「夏本颯士、香坂と同じ3年だ。よろしくな」
ゴツゴツとした大きな手を差し出す。ガッシリした体型、やや見上げるくらいの身長は180は超えているだろう。
髪は俺より少し短くて、前髪を上げて額が見えるようになっている。かなり黒に近い茶色だけど、染めているわけではなさそうだ。
「桐賀葉介です、よろしくお願いします」
「葉介ね、呼びやすくていいな。オレのことも名前呼びでいいぞ」
髪と同じで顔立ちも爽やか。薄い唇に、高い鼻、一重で僅かにつり目。スポーツマンのような感じの先輩だ。
笑顔に少しだけギラギラした感じが見えるのもスポーツマンっぽい。
「主な担当はカメラと編集だ。まあこの人数だから、他のこともやるけどな」
「あ、やっぱり担当が決まってるんですね」
ドラマも映画も、それぞれ仕事が決まってるもんな。
「ちなみに香坂が監督だぞ」
「え、桜さん監督なんですか!」
驚きの声をあげると、颯士さんは「そうそう」と深く頷く。
「一番エラい人だからな、敬えよ」
「やめてってソウ君。そんなんじゃないから」
呆れたように首を振って見せる桜さん。でも、監督ってすごいな。
女子学生の監督……知り合いにいないわけではないけど。
「っと、もう1人紹介しないとね。おーい、スズちゃん」
スズちゃんと呼ばれた女子は、さっきからずっと俺に背を向けるようにスツールに座ったまま、赤いヘッドホンをして小さく体を揺らしている。
これは、聞こえて……ない……?
「もう、また大音量で聞いてるな。スーズーちゃん!」
桜さんが叫ぶと、ようやく彼女はこちらを向く。そして俺を見てびっくりしたようにクッと体を退いた。
ワインレッドのリボン、ってことは同学年か。
「さっきLIMEで連絡した、部員の候補だよ」
「桐賀葉介です、よろしくおね——」
言いかけた俺は、ヘッドホンを外しながら立ち上がった彼女を見て声を止める。
代わりに口から出てきたのは、「あ……」という小さな驚嘆の呟きだった。
「何、知り合い?」
俺が「そういうわけじゃ」と否定する前に、彼女はふるふると首を振った。
「月居涼羽です。同じ2年生、よろしく」
小さい声で挨拶する彼女に、俺もタイミングを合わせてお辞儀をした。
身長は160くらいだろうか。女子なら決して低くないけど、桜さんも颯士さんも高いので、細身な体型も相俟って小さく見える。
大きくてやや切れ長の目に小さい鼻と口で可愛い顔立ちだけど、割とクールな印象。今もそうだけど、あんまり笑わないタイプなのかもしれない。
特徴的なのは髪。色は明るい栗色で、耳は隠れる程度、前髪は眉毛の下までというショートヘア。少しずつ落ち始めた陽の光に照らされて、鮮やかに輝いている。
確か、2つ隣のクラスだったはず。この栗色の髪と、朝や放課後にいつも付けている真っ赤なヘッドホンがやけに印象的で、見かける度に「静かそうだけど目立つ人だなあ」とチラ見していた。
そうか、てっきり軽音楽部か何かだと思っていたけど、ここに入ってたんだ。
「あ、の……月居さんは担当って……?」
「ワタシ? 音声と照明。特に音声が好きね」
斜め下に目線を下げながら、ややぶっきらぼうに答える月居。音声と照明か。裏方が好きというのが、見た目のイメージ通りだ。
「で、部長の私が、監督や脚本を担当してる香坂桜。以上3人、小豆里高校、映画制作部にようこそ!」
じゃーん、と効果音が付きそうなほど右手を広げる桜さん。颯士さんが呼応するように、「ようこそ!」と掛け声を重ねた。