『2人とも、昨日はお疲れさまでした!』
期末試験の初日を終えた、6月29日、月曜日。テスト後にまっすぐ帰宅してから、桜さんを抜いたグループを作って連絡する。
『おう、葉介もお疲れ!』
『お疲れ様です』
昨日の3回目の撮影も、無事に終わった。
原則部活禁止という期間なので、14時過ぎには一旦終了。キャストの人に迷惑をかけるわけにはいかない。解散後、映画制作部だけ残って風景のシーンを撮った。
『ところで今週、4日の土曜日に撮影予定ですけど、桜さんの誕生日と被ってますよね?』
『おお、そうだな。このままいったらクランクアップと重なるぞ!』
颯士さんが、返信に続いて「なんという偶然!」という台詞付きの猫のスタンプを送ってくる。そのテンションが普段の颯士さんのイメージとも重なって面白い。
『プレゼントとかどうします? 全員で何か買いますか?』
「あっ」
打っている途中で涼羽に先を越され、思わずスマホの液晶に声をぶつける。慌てて文面を修正して送信した。
『バラバラで買って一斉に渡しません? 全員でっていうと何買うか決めるの大変だし、キャストの3人に声掛けするときに幾ら集めるかとか調整難しいかなって』
『桐賀君の言う通りね。キャストの人には、3人でまとめて贈りたかったらそれでもいいよ、って伝えればいいし』
『オッケー。最後の撮影って学校近くのシーンだよな? 私服で撮るやつだろ? じゃあ場所はオレの方でセッティングするよ。葉介、キャストへの連絡任せていいか?』
『分かりました。大まかな予算だけ決めて、各自準備しましょう!』
手でオッケーマークを作っているウサギのスタンプを送り、座っている椅子をぐるりと回転させる。
「よっし!」
映画制作部部長の、桜さんの誕生日にプレゼントを買って渡す。しかも、クランクアップの日に。
偶然がもたらしたその甘美な響きに酔いしれ、自然と湧き出てきた喜びを発散させるように、丸めたタオルケットをドコドコと殴った。
***
ようやく期末テストを倒した水曜日放課後、19時。暗くなり始めた街の中で、ディスカウントショップや家電量販店の照明が、歩いている人々の足元に影を作る。
撮影計画を確認して部活が解散になった後、俺は上りの電車に飛び乗り、都心の雑貨店に来ていた。
「涼羽以外はまだ何も買ってないよな……?」
LIMEの履歴を確認する。颯士さんに涼羽、そしてキャストの3人を巻き込んだトークグループでは、プレゼントが重複しないように買ったら報告することになっている。
涼羽が「良い音で音楽を聴いてほしい」とイヤホンの画像を投稿して以来、特に動きはなかった。
「予算は2000円前後、と」
1階の美容グッズ、2階のキッチングッズを通り過ぎ、3階の生活雑貨と4階の文具を行ったり来たりする。
アロマってのもいいな。あるいはバスボム? いや、女性にお風呂のグッズ送るのってアレだよな……じゃあちょっと変わった文具? ネタ系で攻める? 笑ってもらえるかも?
受け取った桜さんの顔を思い浮かべながら、1つ1つ手に取ってじっくり見ていく。閉店の21時まではたっぷり時間がある。こんなに大変で、こんなに悩むプレゼント選びも、きっとそうそうないだろう。
「これ……にするか」
結局選んだのは、スタイリッシュで大人向けなシルバーとピンクのシャーペン。
受験を頑張れるように、そして、これからも絵コンテを描き続けられるように、願いを込めて。
「あ、ギフトなのでラッピングお願いできますか?」
リボンが潰れないように注意して持ちながら、弾む足取りで帰る。
喜んでもらえるかな、喜んでくれるといいな。
そしてもし贅沢を言えるなら、俺にとって桜さんがどれだけ大きい存在か、少しだけでも届くといいな。
最寄り駅で電車を降りると、迎えてくれたのは薄墨色に塗りつぶされている空。歯磨き粉を飛ばしたように輝いている白い星を見ながら、袋を握る手に力を込めた。
期末試験の初日を終えた、6月29日、月曜日。テスト後にまっすぐ帰宅してから、桜さんを抜いたグループを作って連絡する。
『おう、葉介もお疲れ!』
『お疲れ様です』
昨日の3回目の撮影も、無事に終わった。
原則部活禁止という期間なので、14時過ぎには一旦終了。キャストの人に迷惑をかけるわけにはいかない。解散後、映画制作部だけ残って風景のシーンを撮った。
『ところで今週、4日の土曜日に撮影予定ですけど、桜さんの誕生日と被ってますよね?』
『おお、そうだな。このままいったらクランクアップと重なるぞ!』
颯士さんが、返信に続いて「なんという偶然!」という台詞付きの猫のスタンプを送ってくる。そのテンションが普段の颯士さんのイメージとも重なって面白い。
『プレゼントとかどうします? 全員で何か買いますか?』
「あっ」
打っている途中で涼羽に先を越され、思わずスマホの液晶に声をぶつける。慌てて文面を修正して送信した。
『バラバラで買って一斉に渡しません? 全員でっていうと何買うか決めるの大変だし、キャストの3人に声掛けするときに幾ら集めるかとか調整難しいかなって』
『桐賀君の言う通りね。キャストの人には、3人でまとめて贈りたかったらそれでもいいよ、って伝えればいいし』
『オッケー。最後の撮影って学校近くのシーンだよな? 私服で撮るやつだろ? じゃあ場所はオレの方でセッティングするよ。葉介、キャストへの連絡任せていいか?』
『分かりました。大まかな予算だけ決めて、各自準備しましょう!』
手でオッケーマークを作っているウサギのスタンプを送り、座っている椅子をぐるりと回転させる。
「よっし!」
映画制作部部長の、桜さんの誕生日にプレゼントを買って渡す。しかも、クランクアップの日に。
偶然がもたらしたその甘美な響きに酔いしれ、自然と湧き出てきた喜びを発散させるように、丸めたタオルケットをドコドコと殴った。
***
ようやく期末テストを倒した水曜日放課後、19時。暗くなり始めた街の中で、ディスカウントショップや家電量販店の照明が、歩いている人々の足元に影を作る。
撮影計画を確認して部活が解散になった後、俺は上りの電車に飛び乗り、都心の雑貨店に来ていた。
「涼羽以外はまだ何も買ってないよな……?」
LIMEの履歴を確認する。颯士さんに涼羽、そしてキャストの3人を巻き込んだトークグループでは、プレゼントが重複しないように買ったら報告することになっている。
涼羽が「良い音で音楽を聴いてほしい」とイヤホンの画像を投稿して以来、特に動きはなかった。
「予算は2000円前後、と」
1階の美容グッズ、2階のキッチングッズを通り過ぎ、3階の生活雑貨と4階の文具を行ったり来たりする。
アロマってのもいいな。あるいはバスボム? いや、女性にお風呂のグッズ送るのってアレだよな……じゃあちょっと変わった文具? ネタ系で攻める? 笑ってもらえるかも?
受け取った桜さんの顔を思い浮かべながら、1つ1つ手に取ってじっくり見ていく。閉店の21時まではたっぷり時間がある。こんなに大変で、こんなに悩むプレゼント選びも、きっとそうそうないだろう。
「これ……にするか」
結局選んだのは、スタイリッシュで大人向けなシルバーとピンクのシャーペン。
受験を頑張れるように、そして、これからも絵コンテを描き続けられるように、願いを込めて。
「あ、ギフトなのでラッピングお願いできますか?」
リボンが潰れないように注意して持ちながら、弾む足取りで帰る。
喜んでもらえるかな、喜んでくれるといいな。
そしてもし贅沢を言えるなら、俺にとって桜さんがどれだけ大きい存在か、少しだけでも届くといいな。
最寄り駅で電車を降りると、迎えてくれたのは薄墨色に塗りつぶされている空。歯磨き粉を飛ばしたように輝いている白い星を見ながら、袋を握る手に力を込めた。