「ふう……」
渓谷のある石名駅。一人で先に集合場所に来ているものの、ロケ地の案内役ということで、落ち着かずに改札を出た駅舎の中をうろうろしてしまう。
何度もスマホを見るが、集合予定の9時まで、なかなか時間が進まなかった。
あっという間にクランクインしてから1週間が過ぎ、2回目の撮影となった。昨日は午前中に降るかもという予報となっていたので、21日日曜の今日が撮影日に。実際に昨日の朝は小雨が降り、今日はしっかり快晴。判断は正解だった。
「おーい、葉介!」
「おはようございます、颯士さん!」
アーティストの新作MVを何曲かチェックしていると、ようやく時刻に。集合時間ちょうどに停車した電車から、部の仲間とキャストが一斉に降りてきた。
虫刺され対策で、撮影班と雪野さんは長袖。藤島さんと永田君はやむなく制服だけど、颯士さんが悪霊を追い払うかのごとく虫よけスプレーを大量にかけているので、多分大丈夫だろう。
永田君だけが「小さいときに連れてきてもらったなあ」と懐かしそうにしていたが、他の人はほとんど初めて来たらしくキョロキョロと左右を見渡している。
「葉介、お前、こんな遠くから通ってんのか」
「まあ最寄りは2つ手前ですけどね」
颯士さんの撮影機材の一部を持ちながら、「こっちですよ」とバスに案内する。自分しか知らないところを先頭で案内するのは、ちょっとした優越感に浸れた。
「桜さん、晴れて良かったですね」
子どものように楽しそうな表情でバスの窓から外を見ている桜さんに話しかけると「そうね」とやや渋い顔。
「昨日の雨がそんなに残ってないといいけど……」
「降ったの一瞬でしたし、大丈夫ですよ」
そっか、と彼女は柔らかく微笑んだ。
ベージュのワイドパンツにグレーの薄手パーカー。制服はすっかり見慣れたけど、崩したカジュアルな恰好もよく似合う。
「次は、石名渓谷入口、石名渓谷入口」
揺られること20分弱。目的地に着き、一斉に降りる。
「おわっ、すごい! めっちゃ綺麗!」
雪野さんのハイテンションな叫び声が高い空に吸い込まれた。
この前来た時と同様、連なっている低い山は、種類の異なる緑の絵の具を散らしたように、木々が生い茂っている。
その山々に挟まれている比較的浅い川が、落ちた数枚の葉をゆっくりと運んでいた。川沿いには水切りで遊ぶのにちょうど良さそうな、上流で削られた丸い石がたくさんある。
いつも通り人は少なく、渓谷全体が最高の撮影日和だった。
「すごい……」
「初めて来たけど、めちゃくちゃいいな、ここ!」
目を丸くする月居に続いて、颯士さんが感嘆の声を漏らす。「葉介、こんな贅沢な場所で読書してたのか!」とツッコまれ、幾分気恥ずかしくなった。
「まあ、アクセス悪いし、整備されてないし、人気スポットにならないの分かりますけどね」
「今回はそれがプラスになったわね。それじゃ、撮影しましょ! ソウ君、まずは上から!」
「任せとけ。葉介、一番見晴らしが良い山、教えてくれるか」
何をするのか指示されないまま、颯士さんと一緒に山を登る。他のメンバーは、撮影場所を見つけてリハーサルを進めるらしい。
標高が低くて歩きやすいとはいえ、機材を背負って歩くのはなかなか大変。それでも「これぞ映画ロケ」という感じがして足取りは軽かった。
渓谷のある石名駅。一人で先に集合場所に来ているものの、ロケ地の案内役ということで、落ち着かずに改札を出た駅舎の中をうろうろしてしまう。
何度もスマホを見るが、集合予定の9時まで、なかなか時間が進まなかった。
あっという間にクランクインしてから1週間が過ぎ、2回目の撮影となった。昨日は午前中に降るかもという予報となっていたので、21日日曜の今日が撮影日に。実際に昨日の朝は小雨が降り、今日はしっかり快晴。判断は正解だった。
「おーい、葉介!」
「おはようございます、颯士さん!」
アーティストの新作MVを何曲かチェックしていると、ようやく時刻に。集合時間ちょうどに停車した電車から、部の仲間とキャストが一斉に降りてきた。
虫刺され対策で、撮影班と雪野さんは長袖。藤島さんと永田君はやむなく制服だけど、颯士さんが悪霊を追い払うかのごとく虫よけスプレーを大量にかけているので、多分大丈夫だろう。
永田君だけが「小さいときに連れてきてもらったなあ」と懐かしそうにしていたが、他の人はほとんど初めて来たらしくキョロキョロと左右を見渡している。
「葉介、お前、こんな遠くから通ってんのか」
「まあ最寄りは2つ手前ですけどね」
颯士さんの撮影機材の一部を持ちながら、「こっちですよ」とバスに案内する。自分しか知らないところを先頭で案内するのは、ちょっとした優越感に浸れた。
「桜さん、晴れて良かったですね」
子どものように楽しそうな表情でバスの窓から外を見ている桜さんに話しかけると「そうね」とやや渋い顔。
「昨日の雨がそんなに残ってないといいけど……」
「降ったの一瞬でしたし、大丈夫ですよ」
そっか、と彼女は柔らかく微笑んだ。
ベージュのワイドパンツにグレーの薄手パーカー。制服はすっかり見慣れたけど、崩したカジュアルな恰好もよく似合う。
「次は、石名渓谷入口、石名渓谷入口」
揺られること20分弱。目的地に着き、一斉に降りる。
「おわっ、すごい! めっちゃ綺麗!」
雪野さんのハイテンションな叫び声が高い空に吸い込まれた。
この前来た時と同様、連なっている低い山は、種類の異なる緑の絵の具を散らしたように、木々が生い茂っている。
その山々に挟まれている比較的浅い川が、落ちた数枚の葉をゆっくりと運んでいた。川沿いには水切りで遊ぶのにちょうど良さそうな、上流で削られた丸い石がたくさんある。
いつも通り人は少なく、渓谷全体が最高の撮影日和だった。
「すごい……」
「初めて来たけど、めちゃくちゃいいな、ここ!」
目を丸くする月居に続いて、颯士さんが感嘆の声を漏らす。「葉介、こんな贅沢な場所で読書してたのか!」とツッコまれ、幾分気恥ずかしくなった。
「まあ、アクセス悪いし、整備されてないし、人気スポットにならないの分かりますけどね」
「今回はそれがプラスになったわね。それじゃ、撮影しましょ! ソウ君、まずは上から!」
「任せとけ。葉介、一番見晴らしが良い山、教えてくれるか」
何をするのか指示されないまま、颯士さんと一緒に山を登る。他のメンバーは、撮影場所を見つけてリハーサルを進めるらしい。
標高が低くて歩きやすいとはいえ、機材を背負って歩くのはなかなか大変。それでも「これぞ映画ロケ」という感じがして足取りは軽かった。