「はい、午前の部、あと3カットです! キリ君、ちょっと」
レフ板の位置を考えていたところで桜さんに呼ばれる。彼女は、封筒に入っているお金を手渡してくれた。
「近くにホット弁当あるでしょ? お弁当、人数分買ってきてくれる? 私がレフ板やるから」
「わかりました」
お金を持たされ、ダッシュで昼食の買い出しに行く。
桜さんが撮影前に言ってたな。「キャストの人には出演料とか払えないから、ご飯と飲み物くらいはちゃんと出すのが礼儀だ」って。そうだよな、休日にこんなに時間を割いてもらうんだから、食事くらいはちゃんとしなきゃ。
「みんな、お疲れ様。ここで休憩です!」
戻ってくると、ちょうど前半最後のカットのモニターチェックが終わったところだった。
「お待たせしました、お昼です! 肉も魚も各種取り揃えてますよ。7種類、早い者勝ちです。お店のオススメは銀鮭弁当!」
大きなビニール袋を2つ、ドサッと置く。水槽に餌を蒔かれた金魚のように、全員がわらわらと集まった。
「まずはキャストの3人から取って!」
「じゃあ銀鮭いただきます!」
「私、ハンバーグ!」
弁当と箸、紙パックのお茶を全員が取り、颯士さんが敷いたレジャーシートに座る。桜さんの掛け声に合わせて「いただきます」と手を合わせると、朝から張り詰めていた緊張が、一気に解けた。
「撮影、楽しいですね!」
「演劇と違ってカメラ気にしなきゃいけないのが難しい!」
ご飯を頬張りながら佳澄と和志の2人が騒いでいると、「午後はアタシも出るから覚悟しておいてね!」と楽しげに陽菜が混ざる。
束の間のリフレッシュで、タイトなスケジュールがもたらす逼迫感は、俺の海苔弁当の海苔のようにベリベリと剥がれていった。
「あーあ、これ撮り終わったら夏休みかあ」
ビターテイストのカフェオレと、アーモンドチョコレートをむぐむぐと頬張りながら、桜さんがグッと空を仰いだ。「ですよね」と相槌を打つのは、俺と月居。
「3年生は本格的に受験勉強も始まりますもんね」
「そうなのよ、夏休みは受験の天王山ってね」
月居に渋い顔を見せながら、両手を首の後ろで組む。そっか、部活でしか会ってないから実感なかったけど、桜さんも颯士さんも受験生なんだよな。
「今の『きっと見抜けない』撮ったら……」
引退ですか、は口にしなかった。なんとなく、言ったら現実になってしまう気がして。
しかしその不安は、彼女の大きな首振りで打ち消された。
「ううん、まだ辞めないかなあ。ちゃんと勉強はするよ。そのうえで、親には認めてもらうつもり。秋までは撮りたいからね」
「そっか、それならいいですね! たくさん撮りましょう!」
まだ一緒に創れるという嬉しさで、声のボリュームが大きくなる。出会ってすぐにお別れは、寂しい。
「ホントはずっと映画撮ってたいけど、やることもやらなくちゃね。もうすぐ18歳だし、選挙権も持つし、オトナになるってことね」
へえ、もうすぐ18歳か……もうすぐ?
「あれ、桜さん、来月誕生日でしたっけ?」
「スズちゃん、よく覚えててくれたわね。そうよ、来月の4日」
何だって! 初めて知った! てっきり春生まれだと思っていたのに。
「まあ、受験より誕生日より先に、月末の期末テストよね……2人とも大丈夫……?」
「……月居、準備どう……?」
「……音声って教科があればいいのに…………」
3人で芝居っぽく頭を抱えてみる。
映画を創るのはもちろん面白いけど、こうして出来た仲間とこういうバカ話ができるのもすごく楽しい。
部活って、良いものだな。
レフ板の位置を考えていたところで桜さんに呼ばれる。彼女は、封筒に入っているお金を手渡してくれた。
「近くにホット弁当あるでしょ? お弁当、人数分買ってきてくれる? 私がレフ板やるから」
「わかりました」
お金を持たされ、ダッシュで昼食の買い出しに行く。
桜さんが撮影前に言ってたな。「キャストの人には出演料とか払えないから、ご飯と飲み物くらいはちゃんと出すのが礼儀だ」って。そうだよな、休日にこんなに時間を割いてもらうんだから、食事くらいはちゃんとしなきゃ。
「みんな、お疲れ様。ここで休憩です!」
戻ってくると、ちょうど前半最後のカットのモニターチェックが終わったところだった。
「お待たせしました、お昼です! 肉も魚も各種取り揃えてますよ。7種類、早い者勝ちです。お店のオススメは銀鮭弁当!」
大きなビニール袋を2つ、ドサッと置く。水槽に餌を蒔かれた金魚のように、全員がわらわらと集まった。
「まずはキャストの3人から取って!」
「じゃあ銀鮭いただきます!」
「私、ハンバーグ!」
弁当と箸、紙パックのお茶を全員が取り、颯士さんが敷いたレジャーシートに座る。桜さんの掛け声に合わせて「いただきます」と手を合わせると、朝から張り詰めていた緊張が、一気に解けた。
「撮影、楽しいですね!」
「演劇と違ってカメラ気にしなきゃいけないのが難しい!」
ご飯を頬張りながら佳澄と和志の2人が騒いでいると、「午後はアタシも出るから覚悟しておいてね!」と楽しげに陽菜が混ざる。
束の間のリフレッシュで、タイトなスケジュールがもたらす逼迫感は、俺の海苔弁当の海苔のようにベリベリと剥がれていった。
「あーあ、これ撮り終わったら夏休みかあ」
ビターテイストのカフェオレと、アーモンドチョコレートをむぐむぐと頬張りながら、桜さんがグッと空を仰いだ。「ですよね」と相槌を打つのは、俺と月居。
「3年生は本格的に受験勉強も始まりますもんね」
「そうなのよ、夏休みは受験の天王山ってね」
月居に渋い顔を見せながら、両手を首の後ろで組む。そっか、部活でしか会ってないから実感なかったけど、桜さんも颯士さんも受験生なんだよな。
「今の『きっと見抜けない』撮ったら……」
引退ですか、は口にしなかった。なんとなく、言ったら現実になってしまう気がして。
しかしその不安は、彼女の大きな首振りで打ち消された。
「ううん、まだ辞めないかなあ。ちゃんと勉強はするよ。そのうえで、親には認めてもらうつもり。秋までは撮りたいからね」
「そっか、それならいいですね! たくさん撮りましょう!」
まだ一緒に創れるという嬉しさで、声のボリュームが大きくなる。出会ってすぐにお別れは、寂しい。
「ホントはずっと映画撮ってたいけど、やることもやらなくちゃね。もうすぐ18歳だし、選挙権も持つし、オトナになるってことね」
へえ、もうすぐ18歳か……もうすぐ?
「あれ、桜さん、来月誕生日でしたっけ?」
「スズちゃん、よく覚えててくれたわね。そうよ、来月の4日」
何だって! 初めて知った! てっきり春生まれだと思っていたのに。
「まあ、受験より誕生日より先に、月末の期末テストよね……2人とも大丈夫……?」
「……月居、準備どう……?」
「……音声って教科があればいいのに…………」
3人で芝居っぽく頭を抱えてみる。
映画を創るのはもちろん面白いけど、こうして出来た仲間とこういうバカ話ができるのもすごく楽しい。
部活って、良いものだな。