「でも颯士さん、カット数多いけど、このペースでいけば順調に終われそうですね」
「いやあ、どうかな」
彼はカメラのボタンを幾つか押しながら、小さく首を傾げる。
「この4カットは役者もカメラもほとんど動きがなかったからな、肩慣らしみたいなもんだ。これからNGも出てくるはず」
「そっか。NG大賞に出てくるようなミスが出たら映画の最後にネタで流したりしたいなあ」
あれは有名な俳優や女優がトチってるから笑えるんだろ、とツッコまれる。
「この部活入ってから、テレビでよくああいう番組見るんですよ、撮影風景とかも。みんな冗談とか言い合ってるし、スタッフも笑いが絶えない感じで面白そうだなって」
「……まあな」
簡単に相槌を打って、颯士さんは苦笑いする。俺にはその表情の理由がよく分からなくて、「まあそもそもNGなんてない方がいいんですけどね」と自分で意味を解釈して補足を口にした。
「はい、じゃあカット71、いきまーす! 動き入るシーンだからね、気合い入れていくわよ」
窓を下まで覆うレースカーテン。カメラは、そのそばで待機する佳澄へ。
今度はしゃがんでいてもフレームに入り込んでしまうので、月居も離れた場所から竿を伸ばし、上からマイクを近づける。俺も映らないギリギリの場所でレフ板を構え、光を反射させた。
「よういっ……アクション!」
佳澄が軽く勢いをつけてレースのところまでスキップする。そしてレースのカーテンをくるっと体に巻き付けた。
『一緒の大学、とか? ごめんなさい、もう1回やらせてください』
台詞にない言葉が足されていて、首を傾げる。そしてすぐ、それが藤島さんのNG申告だと分かった。
「すみません、動きの方に意識がいきすぎてました」
「そうよね、私もそう感じた。もう1回ね」
え? 台詞も間違ってないのに? そんなに変だったかな?
「テイク2! よういっ……アクション!」
『一緒の大学、とか?』
レースのカーテンをドレスのように纏ってみせる佳澄に、和志が数歩近づく。
『そうなったら面白いよな』
「カット! 映像見るわ」
すぐに全員でモニターのもとへ。
手で口を押さえながら撮ったばかりの映像を見ている桜さんの表情は、徐々に渋いものになっていった。
「……ダメね、カメラの移動が少し遅れてる。佳澄を追えてない」
「だよなあ、ちょっと遅いと思ったんだ」
一番後ろでよく分からなかったので首を傾げていると、「キリ君、見てみる?」ともう一度再生してくれた。
「ほら、ここの部分、途中の2秒くらい佳澄が左に寄っちゃってるでしょ?」
「あ、え? あ、はい……」
俺の率直な感想は、「このくらいのことで?」だった。
確かに、少しだけ左に寄って映ってしまっている。でもすぐにカメラが追い付いて真ん中に戻るし、指摘されなければ見ている人は気にも留めないレベルの話だと思う。
さっきの佳澄の演技といい、合格の基準が高すぎる気がする。
とはいえ、みんなリテイクに向けて動いている中でそんなことを言うのも憚られて、その場は頷いてやりすごした。
「いやあ、どうかな」
彼はカメラのボタンを幾つか押しながら、小さく首を傾げる。
「この4カットは役者もカメラもほとんど動きがなかったからな、肩慣らしみたいなもんだ。これからNGも出てくるはず」
「そっか。NG大賞に出てくるようなミスが出たら映画の最後にネタで流したりしたいなあ」
あれは有名な俳優や女優がトチってるから笑えるんだろ、とツッコまれる。
「この部活入ってから、テレビでよくああいう番組見るんですよ、撮影風景とかも。みんな冗談とか言い合ってるし、スタッフも笑いが絶えない感じで面白そうだなって」
「……まあな」
簡単に相槌を打って、颯士さんは苦笑いする。俺にはその表情の理由がよく分からなくて、「まあそもそもNGなんてない方がいいんですけどね」と自分で意味を解釈して補足を口にした。
「はい、じゃあカット71、いきまーす! 動き入るシーンだからね、気合い入れていくわよ」
窓を下まで覆うレースカーテン。カメラは、そのそばで待機する佳澄へ。
今度はしゃがんでいてもフレームに入り込んでしまうので、月居も離れた場所から竿を伸ばし、上からマイクを近づける。俺も映らないギリギリの場所でレフ板を構え、光を反射させた。
「よういっ……アクション!」
佳澄が軽く勢いをつけてレースのところまでスキップする。そしてレースのカーテンをくるっと体に巻き付けた。
『一緒の大学、とか? ごめんなさい、もう1回やらせてください』
台詞にない言葉が足されていて、首を傾げる。そしてすぐ、それが藤島さんのNG申告だと分かった。
「すみません、動きの方に意識がいきすぎてました」
「そうよね、私もそう感じた。もう1回ね」
え? 台詞も間違ってないのに? そんなに変だったかな?
「テイク2! よういっ……アクション!」
『一緒の大学、とか?』
レースのカーテンをドレスのように纏ってみせる佳澄に、和志が数歩近づく。
『そうなったら面白いよな』
「カット! 映像見るわ」
すぐに全員でモニターのもとへ。
手で口を押さえながら撮ったばかりの映像を見ている桜さんの表情は、徐々に渋いものになっていった。
「……ダメね、カメラの移動が少し遅れてる。佳澄を追えてない」
「だよなあ、ちょっと遅いと思ったんだ」
一番後ろでよく分からなかったので首を傾げていると、「キリ君、見てみる?」ともう一度再生してくれた。
「ほら、ここの部分、途中の2秒くらい佳澄が左に寄っちゃってるでしょ?」
「あ、え? あ、はい……」
俺の率直な感想は、「このくらいのことで?」だった。
確かに、少しだけ左に寄って映ってしまっている。でもすぐにカメラが追い付いて真ん中に戻るし、指摘されなければ見ている人は気にも留めないレベルの話だと思う。
さっきの佳澄の演技といい、合格の基準が高すぎる気がする。
とはいえ、みんなリテイクに向けて動いている中でそんなことを言うのも憚られて、その場は頷いてやりすごした。