「さて、昨日まで良い感じだったけど、どうかな……お願いっ!」
金曜日の昼休み。飲んだかと思うほど超高速で弁当を食べ終え、部室に来た。
4人で集まり、おしくらまんじゅうしながら部長の小さいスマホ液晶を見ている。
更新したのは天気予報のサイト。明日の天気を全員で確認するために、この場に集まった。
「はい来た!」
「どうだ香坂! よく見えねえ!」
後ろで颯士さんが首をひょこひょこ左右に動かしている。
ややあって、一気に花弁が開いたかのような桜さんの明るい声が響いた。
「…………終日晴れ! 降水確率、午前10%、午後0%!」
「っしゃおらあああああ!」
「やったああああ!」
勢いに任せて颯士さんと3回、桜さんと2回ハイタッチする。月居も小さくガッツポーズを取っていた。
「じゃあ撮影は明日13日に決定! まずは学校内のシーンからだね。キャストに知らせないと」
素早く7人のグループトークに連絡を送る桜さん。それが終わると、俺達に向き直った。
「今日の部活、スズちゃんとキリ君は休みにするわ」
「えっ、休みですか?」
「私とソウ君で撮影場所の確認やるから。この作業はそんなに人数要らないしね」
「でも……」
撮影前日なのに何も手伝えないなんて、という思いがはっきり顔に書いてあったんだろう。彼女もまた、気持ちは分かるよ、と言わんばかりに寂しげに微笑んで見せた。
「スズちゃんとキリくんは、しっかり身体休めてほしい。キリ君も、初めてのことだらけでバタバタだったと思うけど、明日からもっとバタバタだから。今日の夜はゆっくりして、心を落ち着かせるといいわ」
「分かりました。桜さんも夏本さんも、体気を付けてくださいね」
隣の月居にこう言われたら、俺だけ抵抗するわけにもいかない。「俺も全力で休みます!」と返すと、「葉介、全力でやってどうするんだよ」とツッコまれた。
「じゃあまた明日! 何かあったら連絡してね!」
そこで臨時の部活は解散。全員で部室を出て、渡り廊下渡って北校舎へ。3階に上がっていく先輩2人を見送り、月居と2人でそれぞれの教室に戻る。
「…………」
「………………」
そうだった。月居は別に喋るのが嫌いってわけじゃないんだけど、自分からはそんなに話さないんだよな。俺から話題を出さなきゃ。
「明日、晴れて良かったな」
「うん、良かった」
ダメだ、会話が続かない。苦悩しつつも嘆いていると、彼女がパッと目線をこちらに向ける。
「撮影、楽しみね」
「だな、ワクワクするよ。俺、ホントに初めてだから!」
彼女は俺の食い気味な返事にやや気圧されながら、小さく首を縦に振った。
「それにしても、桜さんタフだよなあ。脚本書いて、すぐに絵コンテ用意して、今度は撮影だろ。ずっと気を張りっぱなしだもんな」
「体力ももちろんだけど、エネルギーとか集中力がすごいと思う。映画にかける情熱っていうか」
「そう、すごいよ!」
あまりの同意っぷりに、自分で思っているより大きな声が出てしまった。
「脚本、細かいところまでしっかり考えて書いてるし、絵コンテだってあんなに大変なの一気呵成で仕上げるなんて信じられないよ。でもって、部長として制作スケジュールもちゃんと管理してるし、あんなに綺麗なのに——」
そこまで口に出して、急に会話を止めた。あれ、何か普通のトーンで変なこと言ってしまったような……。
「………………」
月居は、無言のまま鼻でふうっと息を吐いた。その溜息の意味は何だろう? 何か呆れられたかな?
「と、とにかく、明日はよろしくな!」
すべてをテンションで包み隠してその場を立ち去ろうとする俺に、月居は静かに呼びかけた。
「桐賀君」
「んあ?」
「……撮影、楽しいから、期待してていいと思うよ」
微かに口元を緩めた彼女。俺も思いっきり歯茎を見せて笑顔を作る。
「おう、期待しておく」
彼女の教室の前で別れる。ああ、月居も、いいヤツだなあ。
「よし」
興奮で浮き上がりそうな体を、足を前に踏み出して地面に押さえつけながら進んでいく。
明日が、撮影初日。待ちに待った、クランクイン。
金曜日の昼休み。飲んだかと思うほど超高速で弁当を食べ終え、部室に来た。
4人で集まり、おしくらまんじゅうしながら部長の小さいスマホ液晶を見ている。
更新したのは天気予報のサイト。明日の天気を全員で確認するために、この場に集まった。
「はい来た!」
「どうだ香坂! よく見えねえ!」
後ろで颯士さんが首をひょこひょこ左右に動かしている。
ややあって、一気に花弁が開いたかのような桜さんの明るい声が響いた。
「…………終日晴れ! 降水確率、午前10%、午後0%!」
「っしゃおらあああああ!」
「やったああああ!」
勢いに任せて颯士さんと3回、桜さんと2回ハイタッチする。月居も小さくガッツポーズを取っていた。
「じゃあ撮影は明日13日に決定! まずは学校内のシーンからだね。キャストに知らせないと」
素早く7人のグループトークに連絡を送る桜さん。それが終わると、俺達に向き直った。
「今日の部活、スズちゃんとキリ君は休みにするわ」
「えっ、休みですか?」
「私とソウ君で撮影場所の確認やるから。この作業はそんなに人数要らないしね」
「でも……」
撮影前日なのに何も手伝えないなんて、という思いがはっきり顔に書いてあったんだろう。彼女もまた、気持ちは分かるよ、と言わんばかりに寂しげに微笑んで見せた。
「スズちゃんとキリくんは、しっかり身体休めてほしい。キリ君も、初めてのことだらけでバタバタだったと思うけど、明日からもっとバタバタだから。今日の夜はゆっくりして、心を落ち着かせるといいわ」
「分かりました。桜さんも夏本さんも、体気を付けてくださいね」
隣の月居にこう言われたら、俺だけ抵抗するわけにもいかない。「俺も全力で休みます!」と返すと、「葉介、全力でやってどうするんだよ」とツッコまれた。
「じゃあまた明日! 何かあったら連絡してね!」
そこで臨時の部活は解散。全員で部室を出て、渡り廊下渡って北校舎へ。3階に上がっていく先輩2人を見送り、月居と2人でそれぞれの教室に戻る。
「…………」
「………………」
そうだった。月居は別に喋るのが嫌いってわけじゃないんだけど、自分からはそんなに話さないんだよな。俺から話題を出さなきゃ。
「明日、晴れて良かったな」
「うん、良かった」
ダメだ、会話が続かない。苦悩しつつも嘆いていると、彼女がパッと目線をこちらに向ける。
「撮影、楽しみね」
「だな、ワクワクするよ。俺、ホントに初めてだから!」
彼女は俺の食い気味な返事にやや気圧されながら、小さく首を縦に振った。
「それにしても、桜さんタフだよなあ。脚本書いて、すぐに絵コンテ用意して、今度は撮影だろ。ずっと気を張りっぱなしだもんな」
「体力ももちろんだけど、エネルギーとか集中力がすごいと思う。映画にかける情熱っていうか」
「そう、すごいよ!」
あまりの同意っぷりに、自分で思っているより大きな声が出てしまった。
「脚本、細かいところまでしっかり考えて書いてるし、絵コンテだってあんなに大変なの一気呵成で仕上げるなんて信じられないよ。でもって、部長として制作スケジュールもちゃんと管理してるし、あんなに綺麗なのに——」
そこまで口に出して、急に会話を止めた。あれ、何か普通のトーンで変なこと言ってしまったような……。
「………………」
月居は、無言のまま鼻でふうっと息を吐いた。その溜息の意味は何だろう? 何か呆れられたかな?
「と、とにかく、明日はよろしくな!」
すべてをテンションで包み隠してその場を立ち去ろうとする俺に、月居は静かに呼びかけた。
「桐賀君」
「んあ?」
「……撮影、楽しいから、期待してていいと思うよ」
微かに口元を緩めた彼女。俺も思いっきり歯茎を見せて笑顔を作る。
「おう、期待しておく」
彼女の教室の前で別れる。ああ、月居も、いいヤツだなあ。
「よし」
興奮で浮き上がりそうな体を、足を前に踏み出して地面に押さえつけながら進んでいく。
明日が、撮影初日。待ちに待った、クランクイン。