翌日の放課後。昨日のファミレスから一転、今日は学校での部活。ただし、部室ではなく、北校舎1階の集会室に集まっていた。
理由は単純、部室には人が入りきらないから。
「改めて、今回は『きっと見抜けない』の撮影に協力頂き、ありがとうございます」
机を少し前に移動し、椅子だけを7つ、円状に並べる。俺達4人に加え、役者を担当する3人がソワソワしながら座っていた。
小豆里高校の演劇部は40人以上の部員を有する大所帯。役者の他、大道具・小道具、音声・照明など、幾つかの班に分かれている。
役者が一番多いけど、登場人物が10人以下の作品をやることが多く、8~10人の3チームに分けているらしい。今回の3人はそれぞれ違うチームだからお互いもそんなに面識ないらしいよ、と桜さんが事前に教えてくれた。
「えっと、ソウ君とスズちゃんは打診しに行ったときに1回会ってるよね。キリ君は……」
「あ、脚本と絵コンテ渡しに行ったときに」
そうね、とパンッと手を叩く桜さん。
「それじゃ、今日が正式な顔合わせってことで。キャストを担当してくれる、演劇部の役者陣、2年生3人です! もう全員で脚本の読み合わせとかしてくれてるって!」
彼女は舞台挨拶の司会さながら、立ち上がっている3人を正面から撫でるように手を動かした。
同じ学年だけど、知り合いはいない。月居もいないらしく、人見知り気味に会釈していた。
「簡単に自己紹介お願いします!」
「じゃあ私から」
まずは、一番右にいた黒髪ショートの女性がペコリとお辞儀する。
飛び抜けた美人ってわけじゃないけど、大きい目、高い鼻、よく通るやや低めの声で、全体的に凛とした雰囲気を持っていた。
「えっと、佳澄役の藤島です。映画の主演なんて緊張しますけど頑張ります、よろしくお願いします!」
続いて真ん中にいた黒髪の男子が「次、俺だな」と小さく手を挙げた。
颯士さんと同じくらいの短髪だけど、ワックスで持ち上げていないので、朴訥とした印象に見える。
「和志役の永田です。劇の方でも主演級は経験ないので、貴重な経験させてもらいます!」
そして、これまでの2人に一番大きな拍手を送っていた、最後の1人。
背は藤島さんよりちょっと低め。ビターチョコレートみたいな色のミディアムヘア、顔立ちも一番派手、というか華やかだった。
「後輩の陽菜ちゃんやります、雪野です! あ、名前みたいですけど苗字ですよ。結構面倒な女子の役っぽいんで、魔性スキル上げてやっていこうとおもいまーす!」
「いよっ、魔性!」
颯士さんが歌舞伎の大向こうのような掛け声をかけ、教室は一気に笑いに包まれる。
ああ、キャストは最後の年の3年生を除いた中から、桜さんが直接顔見て選んだって言ってたっけ。3人とも、作品の役にとても合っている。
「続いてうちの部員ね」
桜さんが俺達を順番に紹介してくれる。「今回キーになるロケ地を教えてくれたの」と一言添えてくれたのが、ちょっとくすぐったかった。
「最後に私、香坂桜。脚本・監督・演出を務めます。ここから1ヶ月、この7人で最高の映画を撮れるよう、精一杯やっていくので、よろしくお願いします!」
全員からの大きな拍手。部員4人とキャスト3人、このメンバーで、俺は初めて映画を創る。
ふと、半月前を思い出していた。この集会室で、広報委員会に参加していたっけ。
あのとき、桜さんと話していなければ、スマホで渓谷の写真を見ていなければ、そもそも、桜さんが旅行スポット特集を提案していなければ、俺は今ここにいないで、どこかで本でも読んでいただろう。
世界はちょっとしたことで軌道を変えて、自分の想像が及ばないところまで広がっていく。俺の世界の果てはどんどんその突端を伸ばして、愛理が好んで居着いていた場所にまで届きそうだった。
理由は単純、部室には人が入りきらないから。
「改めて、今回は『きっと見抜けない』の撮影に協力頂き、ありがとうございます」
机を少し前に移動し、椅子だけを7つ、円状に並べる。俺達4人に加え、役者を担当する3人がソワソワしながら座っていた。
小豆里高校の演劇部は40人以上の部員を有する大所帯。役者の他、大道具・小道具、音声・照明など、幾つかの班に分かれている。
役者が一番多いけど、登場人物が10人以下の作品をやることが多く、8~10人の3チームに分けているらしい。今回の3人はそれぞれ違うチームだからお互いもそんなに面識ないらしいよ、と桜さんが事前に教えてくれた。
「えっと、ソウ君とスズちゃんは打診しに行ったときに1回会ってるよね。キリ君は……」
「あ、脚本と絵コンテ渡しに行ったときに」
そうね、とパンッと手を叩く桜さん。
「それじゃ、今日が正式な顔合わせってことで。キャストを担当してくれる、演劇部の役者陣、2年生3人です! もう全員で脚本の読み合わせとかしてくれてるって!」
彼女は舞台挨拶の司会さながら、立ち上がっている3人を正面から撫でるように手を動かした。
同じ学年だけど、知り合いはいない。月居もいないらしく、人見知り気味に会釈していた。
「簡単に自己紹介お願いします!」
「じゃあ私から」
まずは、一番右にいた黒髪ショートの女性がペコリとお辞儀する。
飛び抜けた美人ってわけじゃないけど、大きい目、高い鼻、よく通るやや低めの声で、全体的に凛とした雰囲気を持っていた。
「えっと、佳澄役の藤島です。映画の主演なんて緊張しますけど頑張ります、よろしくお願いします!」
続いて真ん中にいた黒髪の男子が「次、俺だな」と小さく手を挙げた。
颯士さんと同じくらいの短髪だけど、ワックスで持ち上げていないので、朴訥とした印象に見える。
「和志役の永田です。劇の方でも主演級は経験ないので、貴重な経験させてもらいます!」
そして、これまでの2人に一番大きな拍手を送っていた、最後の1人。
背は藤島さんよりちょっと低め。ビターチョコレートみたいな色のミディアムヘア、顔立ちも一番派手、というか華やかだった。
「後輩の陽菜ちゃんやります、雪野です! あ、名前みたいですけど苗字ですよ。結構面倒な女子の役っぽいんで、魔性スキル上げてやっていこうとおもいまーす!」
「いよっ、魔性!」
颯士さんが歌舞伎の大向こうのような掛け声をかけ、教室は一気に笑いに包まれる。
ああ、キャストは最後の年の3年生を除いた中から、桜さんが直接顔見て選んだって言ってたっけ。3人とも、作品の役にとても合っている。
「続いてうちの部員ね」
桜さんが俺達を順番に紹介してくれる。「今回キーになるロケ地を教えてくれたの」と一言添えてくれたのが、ちょっとくすぐったかった。
「最後に私、香坂桜。脚本・監督・演出を務めます。ここから1ヶ月、この7人で最高の映画を撮れるよう、精一杯やっていくので、よろしくお願いします!」
全員からの大きな拍手。部員4人とキャスト3人、このメンバーで、俺は初めて映画を創る。
ふと、半月前を思い出していた。この集会室で、広報委員会に参加していたっけ。
あのとき、桜さんと話していなければ、スマホで渓谷の写真を見ていなければ、そもそも、桜さんが旅行スポット特集を提案していなければ、俺は今ここにいないで、どこかで本でも読んでいただろう。
世界はちょっとしたことで軌道を変えて、自分の想像が及ばないところまで広がっていく。俺の世界の果てはどんどんその突端を伸ばして、愛理が好んで居着いていた場所にまで届きそうだった。