「いよいよ今日から、撮影に向けた打ち合わせに入ります!」

 マダム層も多い15時台のファミレスのソファー席。サーブされたフライドポテトをフォークで刺しながら、桜さんが高らかに宣言した。

 絵コンテ完成から一夜明けた、10日水曜日。特にこの店に用事があるわけではないけど、「ずっと部室だと飽きちゃうから、気分転換ね」という部長の提案で、学校から一番近いこの店に来ることにした。

 移動中に「ファミレスで打ち合わせって、なんかカッコいいよね」と浮かれ気味に漏らしていたので、おそらくそっちが本当の理由だろう。


「まずは撮影予定の話ね。今週の土日、13日か14日から撮影開始で、7月の4日か5日まで、週に1回土日のどっちかに撮影。つまり計4回で考えてるわ。ソウ君、それでいいよね?」
「ああ、それでいいと思う。土日両方だと役者の負担が大きすぎるしな。みんな演劇部の準備だってあるだろうし」

 白ブドウスカッシュとジンジャーエールを混ぜた炭酸をグッと飲み干し、颯士さんが首肯する。土日のどっちにするか決まっていないのは、天候が読めないから。


「あくまで予定だけどね、土日どっちも雨だったり、撮影が思いっきり押したりした場合には、役者さんにもお願いして追加の撮影日を設定しましょ」
「4日間で280カット……結構ハードですね」

 月居が唇を口の内側に巻き込みながら呟く。1日70カット、1カット5分だとしても6時間かかる、かなりのボリュームだ。

「まあ風景のシーンとかはキャストいなくても撮れるから、そこは別の日に撮ってもいいしね」

 斜め前のソファー席に座る、小豆里高校の制服の男子5人グループ。撮影という言葉が気になるのか、スマホをいじりながらもちょこちょこ俺達の方を見ていた。そうだよな、当たり前に口にしてるけど、撮影って日常で使う単語じゃないよな。


「で、役割分担だけど、基本的にはソウ君はカメラ、スズちゃんは音声ね。ただ、スズちゃんにも少しカメラ経験してほしいから、どこかのシーンは任せると思う」
「分かりました」

「で、キリ君」
「は、はい」
 シャーペンをカチッとノックして芯を調整し、ノートに近づける。

「メインは照明をお願いしようと思うけど、私達のサポート含めて。映画撮影でやること、一通り経験してもらおうかな」
「分かりました」

 照明か。昼間の撮影だからライトは必要なさそうだけど、何をやるんだろうか。本番を楽しみにしていよう。

「そうしたら、ここからは明日明後日の準備と、撮影初日の予定について相談ね。まずは……」

 話し合いにも熱が入り、瞬く間に時間が過ぎていく。炭酸と野菜ジュースでお腹をたぷたぷに満たしながら、ノートを黒炭で染めていった。