「よお、葉介」
「あ、颯士さん」

 お昼休み、体育のせいでお弁当では到底足りなかったので総菜パン目当てに並んだ購買部。
 後ろから肩を叩かれ振り向くと、前髪をグッと掻き上げた颯士さんがニッと白い歯を見せた。こういうピーカンに晴れた夏日に、彼の茶色っぽい髪色はよく似合う。

「土曜日、うまくロケハンできたか?」
「はい、バッチリです!」
「そかそか、香坂も絵コンテ進んでるみたいだし、スケジュールはキツいけど順調だな」


 週も開けて火曜日。昨日は桜さんが「絵コンテに全力投球する!」と連絡が来て部活はお休みになった。今日は今のところやる予定だけど、桜さん予定通り進んでるかな。

「そういえば、撮影の予定日とか決まってるんですか?」
「お、それ聞いちゃう?」

 無事にソースたっぷりの焼きそばパンを買い、2人で端に寄る。緑色のラバーシートの床が、上履きで擦れてキュッと痛そうな鳴き声をあげた。


「今週末の土日からだ」
「えええっ!」

 土曜ってあと4日? 4日後から撮影? 俺、まだ役者さんも知らないんだけど……

「かなりハードですね……撮影遅らせることできないんですか?」
「ダメだ。来月の17日には完成版の提出だからな。13日か14日にクランクインして、編集まで考えても結構ギリギリだぞ。特に梅雨の時期だから、思うように撮影できないリスクもあるしな」
「あと1ヶ月……」

 たっぷり時間があるように見えて、授業や期末テストを考えたら部活に使える時間はそんなに多くない。

「だから今は香坂が頼りだ。そろそろ仕上がると思うけどな」
「大丈夫ですかね?」
「大丈夫だって」

 俺の問いに、颯士さんはけろっと確信を口にする。まるで、桜さんが書き終える瞬間を目の当たりにしている未来人のように。こういう信頼関係、丸2年一緒にやってきた仲間ならではって感じで、なんか良いな。

「どうだ葉介、映画は楽しいか」
 目線もまっすぐ、直球で放たれた言葉に、同じく真っ正直に返す。

「……難しいです」
 彼は一瞬フリーズした後、すぐに「そか」と口元を緩めた。

「なら良かった。それは楽しいってことだからな」
「ですかね」

 難しいから楽しいなんて、勉強では感じたことがない。でも、言いたいことは理解できて、つられて歯を見せた。


「オレもここからが本番だ。カメラも編集も、気合い入れて頑張らないと」
「カメラってやっぱり大変なんですか?」

 返事を分かっていて投げた質問に、「」ちょっとエラそうに胸を張ってみせる。

「ふふんっ、録画ボタン押してるだけに見えて結構技量が要るからな。今回の撮影では葉介にも撮影の奥深さを知ってもらうぜ」
「うう、頑張ります……」

 肩を落とす俺の背中を、床に打ち付けるようにバンバンと叩く。

「昼休み邪魔して悪かったな。また部活で」
「はい、また!」

 我らが良き兄貴分、颯士さんは、ホイップクリームのパンを咥えながら、軽快に階段を上がっていった。