「それでは、7月に出す『あずさと』のコンテンツについて、何か意見ある人いますか?」
梅雨前から太陽が本気を見せつける5月下旬の放課後、ムシムシした快晴に汗ばんだYシャツの袖を捲る。
小豆里高校、北校舎1階、集会室。昔より1クラス減ったために空いたというこの教室に広報委員長の声が響いた。新聞部の部長もやっているという彼は、腹案を練ってきたのか、ロの字型に並べられた机の一番目立つ位置で、自信ありげに手元のメモ帳をチラ見している。
「一応、去年のを参考に、僕の方でも幾つか考えてきたんですけど……」
月に一度の委員会は面倒だけど、うちの学校は生徒全員、何らかの委員会に入らないといけない決まり。勝手が分かっているので去年と同じものに入ることが多く、俺もご多分に漏れず、1年に引き続いて広報委員会に入っている。
隔月で学内向けの定期刊行誌を出すのが主な仕事で、作成担当のときは大変だけど、一度出すとしばらくは回ってこないので気楽。
俺と一緒に今月号を担当したクラスメイトの橋本も、隣で暇そうにしている。プリントの裏にゴツい手に似合わない可愛い猫の絵を描きながら、小声で俺に話しかけてきた。
「はあ、担当じゃないときはホントに暇だよな。結局さ、印刷して学内に貼るのが大変なんだから、LIMEアカウントから全校一斉配信とかにした方が楽じゃないか?」
「全校生徒にアカウント登録してもらう方がよっぽど大変だろ……。それより、専用のサイト作る方が楽かもな。レイアウトも自由にできるし」
「確かに! でもWEBだとあんまり見てもらえないからなあ……そしたらWEBのページ印刷して学内に貼るか」
「結局貼るんじゃん」
バカなやりとりをしながら、会議が終わるまでの時間を潰す。
「じゃあ、次回は高校総体も近いということで、特集1は運動部部長へのインタビューに決まりました。あとは特集2なんですけど何か案ありますか……じゃあ、香坂さん、何でもいいので」
急に3年生を指名し始めた委員長。俺から見て斜め前の位置に座っていた彼女は、名前を呼ばれてスッと立ち上がり、背筋を伸ばして口を開く。
「夏休みが近いので、プチお出かけスポット特集とかいいかもなあ、って思います。『デートにピッタリ!』みたいな煽り文句とか入れて」
コクコクと頷く人に、キャッチコピーに笑う人。決まらない文化祭の出し物会議みたいに硬くなっていた雰囲気が、少しだけ和む。
放課後を使われるのはちょっとダルいけど、この委員会なら昨年に引き続きダルさも半減するというものだ。
「……私の意見は以上です!」
香坂桜さん。1つ上の3年生で、去年から広報委員会で一緒。とはいえ、一緒の号を担当したこともないので、こっちのことは覚えていないだろうけど。
まず名前が素敵。「桜」で「よしの」と読ませるなんて、ものすごく風流だ。桜の色づく春に生まれたのかな。
174の俺より少し低いくらい、160後半はある細身長身のモデル体型で、制服の青チェックスカートがよく似合う。白いブラウスの胸元まである黒髪のミディアムヘアは、少しだけカールしていて、3年生の証であるグリーンのリボンを絶妙に隠していた。前髪は外にハネていて、ちらっとおでこが見えるのが可愛い。
そして、顔も端正だ。白く透明感のある肌、黒目の大きい目、鼻筋が通っているシャープな顔立ち。正統派の美人という感じで、ついつい目がいってしまう。
「反対意見もないようなので、特集2はお出かけスポットの紹介に決定です。記事の割当は一旦こっちで決めるので、希望があれば事前に連絡ください。では、本日の委員会は終わりです。お疲れさまでした」
「おーしたー」
もごもごと挨拶をして、解散となる。みんながバッグを持ってがやがやと立ち上がる中、周囲が落ち着くまで小休止。
そっか、旅行スポットか。どんなの出てくるのかな。気になるところあったら、また1人で行ってみようかな。
ちなみに俺が薦めるとしたら……と、自分のスマホを漁る。最近撮ったものから順に、この前行ったときの山と川の写真に目を留めていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「わっ! ねえ、ちょっとそれ、見せてくれる?」
小豆里高校2年、桐賀葉介。香坂桜さんに、初めて話しかけられた。
梅雨前から太陽が本気を見せつける5月下旬の放課後、ムシムシした快晴に汗ばんだYシャツの袖を捲る。
小豆里高校、北校舎1階、集会室。昔より1クラス減ったために空いたというこの教室に広報委員長の声が響いた。新聞部の部長もやっているという彼は、腹案を練ってきたのか、ロの字型に並べられた机の一番目立つ位置で、自信ありげに手元のメモ帳をチラ見している。
「一応、去年のを参考に、僕の方でも幾つか考えてきたんですけど……」
月に一度の委員会は面倒だけど、うちの学校は生徒全員、何らかの委員会に入らないといけない決まり。勝手が分かっているので去年と同じものに入ることが多く、俺もご多分に漏れず、1年に引き続いて広報委員会に入っている。
隔月で学内向けの定期刊行誌を出すのが主な仕事で、作成担当のときは大変だけど、一度出すとしばらくは回ってこないので気楽。
俺と一緒に今月号を担当したクラスメイトの橋本も、隣で暇そうにしている。プリントの裏にゴツい手に似合わない可愛い猫の絵を描きながら、小声で俺に話しかけてきた。
「はあ、担当じゃないときはホントに暇だよな。結局さ、印刷して学内に貼るのが大変なんだから、LIMEアカウントから全校一斉配信とかにした方が楽じゃないか?」
「全校生徒にアカウント登録してもらう方がよっぽど大変だろ……。それより、専用のサイト作る方が楽かもな。レイアウトも自由にできるし」
「確かに! でもWEBだとあんまり見てもらえないからなあ……そしたらWEBのページ印刷して学内に貼るか」
「結局貼るんじゃん」
バカなやりとりをしながら、会議が終わるまでの時間を潰す。
「じゃあ、次回は高校総体も近いということで、特集1は運動部部長へのインタビューに決まりました。あとは特集2なんですけど何か案ありますか……じゃあ、香坂さん、何でもいいので」
急に3年生を指名し始めた委員長。俺から見て斜め前の位置に座っていた彼女は、名前を呼ばれてスッと立ち上がり、背筋を伸ばして口を開く。
「夏休みが近いので、プチお出かけスポット特集とかいいかもなあ、って思います。『デートにピッタリ!』みたいな煽り文句とか入れて」
コクコクと頷く人に、キャッチコピーに笑う人。決まらない文化祭の出し物会議みたいに硬くなっていた雰囲気が、少しだけ和む。
放課後を使われるのはちょっとダルいけど、この委員会なら昨年に引き続きダルさも半減するというものだ。
「……私の意見は以上です!」
香坂桜さん。1つ上の3年生で、去年から広報委員会で一緒。とはいえ、一緒の号を担当したこともないので、こっちのことは覚えていないだろうけど。
まず名前が素敵。「桜」で「よしの」と読ませるなんて、ものすごく風流だ。桜の色づく春に生まれたのかな。
174の俺より少し低いくらい、160後半はある細身長身のモデル体型で、制服の青チェックスカートがよく似合う。白いブラウスの胸元まである黒髪のミディアムヘアは、少しだけカールしていて、3年生の証であるグリーンのリボンを絶妙に隠していた。前髪は外にハネていて、ちらっとおでこが見えるのが可愛い。
そして、顔も端正だ。白く透明感のある肌、黒目の大きい目、鼻筋が通っているシャープな顔立ち。正統派の美人という感じで、ついつい目がいってしまう。
「反対意見もないようなので、特集2はお出かけスポットの紹介に決定です。記事の割当は一旦こっちで決めるので、希望があれば事前に連絡ください。では、本日の委員会は終わりです。お疲れさまでした」
「おーしたー」
もごもごと挨拶をして、解散となる。みんながバッグを持ってがやがやと立ち上がる中、周囲が落ち着くまで小休止。
そっか、旅行スポットか。どんなの出てくるのかな。気になるところあったら、また1人で行ってみようかな。
ちなみに俺が薦めるとしたら……と、自分のスマホを漁る。最近撮ったものから順に、この前行ったときの山と川の写真に目を留めていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「わっ! ねえ、ちょっとそれ、見せてくれる?」
小豆里高校2年、桐賀葉介。香坂桜さんに、初めて話しかけられた。