横浜の弘明寺に、

()賢象(げんぞう)御殿」

 とタクシードライバーの間で目印となっている屋敷がある。

 門の脇に普賢象という品種の桜の大樹が聳えているのでそう呼ばれているのだが、桜にしては少し遅めの四月の半ば頃になると、薄くれないの八重の花を艶やかに咲かせる。

 ちなみに。

 普賢象という風変わりな名前だが、由来は普賢菩薩が乗る象のことで、花の中心部に象の牙のように見える蕊があり、普賢菩薩が四月の守護仏であるところからこの名前がついたとされる。

 話を本題に移す。

 海士部(あまべ)家がこの屋敷の主になったのは初代の正助が岡山から上京し、海士部組という建設業を始めてから、およそ半世紀を経たところから語り起こさなくてはならない。