日があらたまった。

 聚楽第に呼び出しを受けた信尹は、かつて後陽成帝より賜った白練絹(しらねりきぬ)御衣(おんぞ)を身にまとい、書院の秀吉の前へと進み出た。

「関白殿下にあらせられましては、ご機嫌うるわしくあらせられ…」

「機嫌などうるわしくないわ!」

 遮るように呶鳴った。

「わしが百姓の子ゆえ、姫の替え玉を差し向けたのか?」

「滅相もございませぬ」

「では美人と誉れ高き娘はいずこにおる?」

「おそれながらそのことにつきまして、殿下に申し上げまする」

 と信尹は姿勢をあらため、

「まぎれもなくあれは信尹が娘にございます」

「では美人の噂は嘘と申すか?」

「それは、噂は噂でも昔の話にあらっしゃいます」

「昔の噂、とな?」

「あの娘は確かに前は美人にございました。しかし、流行り病で顔には瘡が出来、髪も抜け落ち坊主となり果てましてございます」

 さりながら、と信尹は、

「心は病にかかる前と同じく美しきままにございます」

 手持ち無沙汰な秀吉は扇子を(もてあそ)んだ。

「なれど世の男はみな同じで、その美しき心には目もくれず、顔にばかり目を向ける者ばかりゆえ、父親として不憫に思うておりました」

 秀吉の目が変わった。