「父さんに怒られないように早く着替えよう」

「ごめんなさい、お兄ちゃん」

「謝らないで。黒炎はお母さんのためにしたんだよね? それなら僕には怒る理由がないよ」

「ありがとう。お兄ちゃん大好き!」

こうやって毎日のように父に怒られる前に兄はなんとかしてくれた。俺はそんな兄が大好きで、尊敬もしていた。兄は小さい頃から落ち着きがあり、大人びていた。きっと柊家の長男として自覚していたのかもしれない。

父も怒るとは言っても注意くらいで今のような性格ではなかった。誰よりも母の体調のことを気遣い、休日は俺たちと遊んでくれた。出張で帰ってくるたびに、いつも美味しいお菓子やお土産をくれたりもした。

そんな父を見て、愛妻家で子供思いだと部下たちは慕っていた。

何の仕事をしているか聞いたことがあった。だけど、当時の俺にはよくわからなかった。まさか大企業の社長なんてな。

その頃、朱里と出会い初めて友達と呼べる人もできた。すごく毎日が幸せな日々……でも、そんな幸せは長くは続かなかった。