「なんて綺麗なダンス……!」

「まるで本物の社交界を見てるみたい」

みんな男性に見とれていた。主に大人の女性たちが。私にはかなり年上の人の魅力なんてわからない。けど、転けそうになる私をさりげなく支えてくれたり、次のステップを耳元で教えてくれたりする対応には正直驚かされた。

まったく知らない人なのに嫌だと思わないのはどうしてだろう。

「ありがとう、楽しめたよ。お嬢さんはこんなオジさんと踊るのは嫌だったかもしれないけどね、ははっ」

「いえ、そんなことはないです。ダンスを教えていただきありがとうございます!」

「どういたしまして。それじゃあ、またどこかで会えるといいね……霧姫朱里さん」

「っ……!?」

笑って楽しそうな雰囲気とはうってかわって、最後に囁かれた声色は背筋が凍るほど寒気がした。名前を知っていたから怖いわけじゃない。やけに毒々しかったからだ。だけど、私……名前なんか言ったっけ?