僕は、そんな花咲さんの笑顔に心を奪われた。


「とにかく教室の中に入ろう、草野くん」


「……そうだね」


 僕は花咲さんの笑顔に心を奪われ過ぎて、廊下で話していることを忘れそうになっていた。





 花咲さんの笑顔に心を奪われながら僕は、ふと思ったことがあった。


 花咲さんが歌っていたあの歌は……。


「花咲さん」


「なぁに、草野くん」


「さっき花咲さんが歌っていた歌って……」


「あの歌?」


「うん」


「あの歌、私が一番好きな歌なの」


 花咲さんが一番好きな歌……。


「曲の名前は……?」


 僕は曲の名前が気になった。


「曲名はわからないの。曲名はわからないんだけど、ある人が歌っていたのを聴いてすごく良い曲だと思ったの」


「……ある人……?」


 僕がそう訊いたら花咲さんは無言で笑顔になった。


 僕は花咲さんが言う『ある人』が誰なのか気になった。


 でも僕はこれ以上、花咲さんに訊いてもいいのかわからなかった。


「花咲さんが歌っていたあの曲ね、僕も好きなんだ」


「草野くんも?」