「そこまで言ってもらえるなんてとても嬉しいです。ええ、私が作ったこのケーキのレシピでよろしければ、是非に」

「ありがとうございます!」


 お父さんがメモ帳とペンをたまたま持っていたので、それをお借りしてお母さんからレシピを伝授してもらう私。

 彼女は、事細かに材料の分量や手順を教えてくれた。「艶が出たら、泡だて器を電動から手動に切り替えてね」とか「生地が均一に混ざったら混ぜすぎない様に」といった、細かいコツもしっかりと伝授してくれた。


「本当にご丁寧に教えていただき、ありがとうございます! お時間取らせてしまって申し訳ないです」


 シフォンケーキ作りの作業手順を隅の隅まで聞いた後、私はメモを見返してから深くふたりに頭を下げた。――すると。


「いえ……。なんだかとても嬉しかったです。私のレシピが、まだ生きているようで。あの子と同じように、喜んで食べてくれる人がいると思うと、心がすっと軽くなりましたわ」

「本当にありがとうございます。……あの、もしよろしければまた思い出した時でいいので、拓斗に会いに来てくださいませんか? あの子も喜ぶと思うので」


 穏やかに微笑みながら、拓斗くんのご両親は言う。

 ――ああ。なんて。なんて、温かい人たちなんだろう。拓斗くんはきっと、お父さんのこともお母さんのことも大好きだったのだろう。

 でも、だからこそ、ふたりに会えなくなってしまってやさぐれてしまっているんだ。もうどうでもいいと、すべてを諦めてしまうことになってしまったんだ。