「今日はお友達が来てくれたよ、拓斗」「よかったねえ」なんて、しみじみと墓石に向かって言うお父さんとお母さんを見ながら、私は小声で紫月にそう尋ねた。


「いや。成仏していれば墓に供えられた食べ物をそのまま食すことは可能だが、生憎拓斗はまだ地縛霊としてこの世に留まっているため、少し特殊なやり方をするしかない」

「特殊なやり方?」

「ああ。調理をする前に、すべての材料に神通力を込める必要がある。そうして作られた完成品なら、拓斗も食べることができるのだ」

「なるほど……」


 そうなると、お母さんが手作りしたものを直接拓斗くんに食べてもらうことは難しそうだ。事情を説明して、神通力とやらを施した材料を渡し、お母さんに再度また作ってもらうことなんてもってのほかだし……。

 ――それならば。


「あの! このシフォンケーキ本当においしかったので、もしよろしければレシピを教えてくださいませんか?」


 思いついた私は、お母さんに向かってお願いしてみる。

 こうなったら、私が作るしかないだろう。レシピさえ分かれば、ほぼ同じ味を再現することはできるはずだ。メレンゲ作りなら、大叔父さんに教えられながら何度もやったことはあるし。

 ただ、少しミスっただけで生地が膨らまなくなったり固くなったりと、シフォンケーキはお菓子作りの中でも難易度が高い方だ。久しぶりに作るから、うまく作れるか不安がないわけではない。

 でもとにかく、成功するまで挑戦し続けるしかないだろう。

 お母さんは目を見開き、一瞬驚いたように私を見た後、柔和に微笑んだ。