――本当に、拓斗くんのことを考えて作っているんだ。彼が生きていた頃、家族三人がこのケーキを中心に団らんしていた光景を思い浮かべて、私はぐっと涙をこらえた。

 そこで私はふと思いつく。

 このケーキ、幽霊になってしまった拓斗くんに、どうにか食べさせてあげることはできないのかな? このケーキを食べれば、きっと拓斗くんは家族にまだ愛されていることを知って、素直に成仏してくれるんじゃないだろうか?

 でも幽霊だから、ひょっとすると人間と同じようにものを食べることはできないのかな?


「幽霊に人間の食べ物を食べさせる――できないことではないぞ。陽葵」

「えっ!?」


 耳元で紫月に囁かれた言葉の内容に、驚愕してしまう私。どうしてそんなことを言ったのだろう? 私が自分の考えを言葉に出したわけではないのに。


「ど、どうして私の考えていることが分かったの? やっぱり紫月って人の心が読めるの?」

「参拝客以外の心など読めないと言っただろう。だが君の考えていることなんてお見通しだ。優しい陽葵の、思いつきそうなことなどな」

「え……」


 目を細めていう紫月。私のことを深く理解してくれているような言い方をされ、心に温かいものが生まれた気がした。

 ――なんだか、心の通じ合った恋人……っていうか、夫婦みたい。

 思わずそう思ってしまった私だったけれど、慌ててそんな考えを打ち消す。

 べ、別に紫月と結婚するわけじゃないんだから。一体何を考えているの、私。


「じゃ、じゃあ。このシフォンケーキをもう一切れもらって、拓斗くんのところに持っていけばいいのかな?」