お父さんが閃いた、という顔をしてそう提案してくれた。息子を忘れずに思っている人がいることや、妻のケーキを褒められたことが、嬉しかったのかもしれない。


「え……。私たちなんかが、よろしいのですか?」


 家族水入らずの時間に、私たちのような部外者が入っていいものなのだろうか。そう思った私は、遠慮がちに言う。――しかし。


「おお! それは是非に!」


 今まで状況を静観していた紫月が、瞳を輝かせながら前に乗り出してそう言ってのけた。こんな時も食いしん坊なんだから……と、私は乾いた笑みを浮かべる。

 お母さんは微笑ましそうに紫月を見ながら、シフォンケーキをふた切れ紙皿の上に乗せ、「さあどうぞ」と差し出してくれた。

 お皿を受け取って、すぐにケーキを口に放り込む紫月。そして咀嚼しながら、満面の笑み浮かべて言う。


「これは……。ふんわりしていてとても優しい味だ。何個でもぺろりと食べられてしまいそうだな」

「あら。それなら残りも全部いただきますか?」

「いえ! いいですからそんなに!」


 私が止めなければ。紫月はきっと残りのケーキをすべて腹に収めてしまうので、全力でそれを阻止する。紫月は少し残念そうな顔をしたけれど、さすがに引き下がったようで何も言わない。

 そんな光景を眺めつつ、私もシフォンケーキをひと口。

 これは確かに、紫月の言う通りだ。ふわふわと柔らかく、優しい甘さが口内にじんわりと広がっていく。ここまでふんわりさせるためには、きっと相当丁寧にメレンゲを作っているに違いない。メレンゲづくりは、とても精密さが要求される大変な作業だというのに。