「そんなことないよ! 家族のことを忘れるわけなんてない!」

「……どうして?」

「私も小さい時に両親が死んじゃってるんだ。でも、忘れた瞬間なんてないし、ずっと会いたいって思ってるもん」

「ふーん……。そうなんだ」


 そう言うと、男の子は私の方を向いてくれた。同じような境遇にいる私に、少しは興味を持ってくれたのかもしれない。先に逝ってしまった側と、遺された側という、立場こそ逆だけれど。

 ――しかし。


「まあ、そうだとしてもさ。俺はもう生き返ることはできないじゃん。もうお父さんとお母さんと一緒に暮らすことなんてないじゃん。……だからどうでもいいよ」


 私の言葉は、あまり男の子の言葉には届いていないようだった。

 でも確かに、彼の言う通りだ。彼はもう生き返ることはできないし、お父さんやお母さんと一緒に居ることは二度と叶わない。――だけど。


「知ってはいると思うが、このままここに居たら、地獄に連れて行かれてしまうぞ」


 紫月が真剣な口調で言う。成仏しないとそのうち悪霊に落ちて地獄行きになるという決まりは、死者になった瞬間に分かるらしい。だからこの男の子も知っているはずなのだけれど。


「別に天国だろうが地獄だろうが、どこでもいいよ。……どうでもいいんだよ、もう自分のことなんて」


 俯き加減でそう言うと、男の子はとうとう私たちに背を向けて、走り去ってしまった。追いかけようと思った私だったけれど、紫月に肩を掴まれる。


「紫月?」