「ああ。チーズは滑らかだし、焼き加減もちょうどいい。それに、とても気持ちがこもっている味がする」

「……気持ち?」

「おいしく作ろうっていう、君の気持ちだ」

「おいしく……」


 そんなこと、私は考えていただろうか。昨日はとにかく気を紛らわせたくて、何かをやらなくちゃと思って、慣れたチーズケーキ作りをしたのだけど……。

 でも、大叔父さんもいつも言っていたっけ。コーヒー豆を挽く時も、メレンゲを泡立てる時も、それを口にする人が幸せな気分になれますようにって思って、作業するんだよって。

 私にもそれが染みついていたのかな……。


「とにかくよかったです、気に入っていただけて」


 そう言うと、ゼンマイ式の古い掛け時計が、ボーンボーンと音を鳴らした。午後六時を指している。


「おや、もうこんな時間か」


 いつの間にかケーキも紅茶もきれいに平らげた彼が、すっくと立ち上がった。浴衣の裾がゆらりと揺れる。やっぱり背が高いなあこの人、と、彼を見上げながら私は思った。


「すみません。そういえばお夕飯前の時間でしたね。ケーキなんて出して、お腹いっぱいになってしまったんじゃないですか?」

「いや、これしきのことで俺の腹は膨れないから大丈夫だ」

「見かけによらず大食いなんですね」

「そうだとも。君も覚悟しておいてくれ」

「……?」


 覚悟って何を? まったく意味が分からず、私は首を傾げる。でもなんだか不思議な人だし、あまり深く考えなくてもいいかな?