「ここにあの子が来るたびに、私たちにも寂しい感情が伝わってくるのですニャ……」


 ――そっか。そりゃ、寂しいし、悲しいよね。

 小学校低学年なんて、まだ両親に甘えたい盛りだ。それなのにいきなり命を落として、両親と離れ離れになってしまって。寂しくて、辛いに決まっている。


「もう亡くなって三年も経つのだな。……そろそろまずい頃だ」


 単純にあの幽霊の男の子に何かできないかなと考えた私だったけれど、紫月の「まずい」という表現に、もっと厄介な事情が内包されているらしいことを察する。


「まずいって?」

「成仏し損ねた幽霊は、念が強まると悪い存在になってしまう。……悪霊にな」

「あ、悪霊!? 人を襲ったり呪ったりする、悪い霊ってことだよね⁉」


 実際の悪霊にはかかわったことは無いけれど、ホラー映画や小説なんかに登場する悪霊は、そんな感じだ。


「その認識で合っている。死者の魂を救済する霊界は基本的に来るもの拒まず、去るもの追わず。悪霊になるのは自己責任という考えのようで、悪さを働いた時点で地獄へ連れていくことになっている」

「地獄って! あんな小さい子が!? なんとかしなくっちゃ!」


 思わず私は立ち上がり、紫月に詰め寄りながら強い口調で言った。紫月は戸惑ったような面持になる。


「しかし、霊に関しては縁結びの私の出る幕では……」


 そう言いかけて、紫月ははっとしたような顔をした。私を彼をじっと見つめていた。あの小さな男の子の寂しさを、なんとか癒したいという気持ちを込めて。