紫月はすっくと立ち上がり、先ほどのニヤケ顔から打って変わって、神妙な面持ちになって少年を見つめる。いつも私に変なからかいをしてくる彼だけど、神として人間の願いを聞くときのこの様には、威厳があって思わず見惚れてしまう。


「お願いします。パパとママと、一緒にいたいです」


 男の子は礼や合掌などをせずに、仁王立ちしたままご神体に向かって言う。幼いから、参拝の礼儀など知らんなくても無理はない。

 それにしても、なんて切ない願いなのだろうと思った。事情があって両親と引き離されているのかな……と、男の子をよく見てみると、私はあることに気づく。

 一体どういうことなの? どうして、この男の子の体は。

 ぼんやりと、透けているのだろう。それって、もしかして――。


「この子はもう、この世のものではないのだ」


 私の想像を、紫月が肯定した。寂しげに男の子を見つめながら。男の子は、踵を返して境内を歩いていく。その体で、どこへ行くというのだろう。


「つまり、幽霊ってこと……?」

「そういうことですニャ」

「この辺の地縛霊となってしまっているようで……。たまにああしてここにやってくるのですよ」

「地縛霊?」


 怪談話なんかでそんな単語を聞いたことはあるけれど、確かなことは分からない私は、千代丸くんと琥珀くんの話に首を捻る。すると、ふたりははあの男の子の素性について説明をしてくれた。