千代丸くんを恨みがましく睨みつける紫月。千代丸くんはヒッと小さく悲鳴を上げて、私の陰に隠れる。


「あー、いや……。紫月はほら、かっこいい神様だから、ね? そういうことは自分でやる大人の魅力、っていうか」


 このままでは私のせいで千代丸くんに被害が及びそうだったので、取り繕うように適当なことを私は言う。すると紫月は、千代丸くんを睨むのを瞬時にやめて、にやりとした笑みを浮かべた。


「かっこいい……。そうか、そうだろう。俺はかっこいいのだ。やっと魅力に気づいたようだな、陽葵」

「えっ。いや、その……」

「かっこいいか……ふふ」


 嬉しそうに笑い声をこぼす紫月。これしきのことでまさかそこまで喜ばれるなんて。そういえば、紫月にそういうことを言ったのは初めてだったかもしれないけれど。

 そんな私に向かって、千代丸くんがからかうように耳打ちする。


「愛されておりますニャア、陽葵さま」

「うーん……」


 と、言われましても。やっぱりなんで愛されているのか心当たりがまったくないから、しっくりとは来ないのだった。――すると。


「おや」


 琥珀くんが境内のほうを見据えて声を上げた。声につられて、私も彼と同じ方向に視線を合わせる。

 Tシャツにハーフパンツ姿の、小学校低学年くらいの男の子が、ひとりで境内社に向かって歩いていた。彼の周囲を見渡しても、保護者らしき人の影はない。

 小学生が、ひとりで神社に来て参拝? 珍しいなあと思う私。