「あはは。千代丸くん。口にきなこいっぱい」


 私が指で口周りのきなこを払ってあげると、千代丸くんは「いやあ、お恥ずかしいですニャ……」とポリポリと頭を掻いた。――すると。


「……陽葵!」

「は、はい?」


 急に紫月が緊迫した声で名を呼んだので、思わず背筋を伸ばして返事をする私。何事かと、彼の顔を見てみると。


「俺もきなこがついてしまった。取ってくれ」


 と、口の端にきなこを不自然に付けた状態で、真剣な面持ちで言ってくる。


「は、はあ……?」

「だから、俺にもきなこがついているから。千代丸と同じように陽葵が取ってくれ」


 ぽかんとしていると、「紫月さま、嫉妬深いですニャ」「これしきのことで……」と、千代丸くんと琥珀くんがぼそぼそと話す声が聞こえてきた。


「…………。これで自分で取ってください」


 呆れた私は、浴衣の裾に仕込んでおいたハンカチを彼に差し出す。この神様は一体何をひとりでやっているんだろう。

 すると紫月は、心外だという面持ちになった。


「な、何故!? 千代丸にはやっておいて何故俺にはやってくれんのだ!?」

「なぜって……。いい大人が何言ってるんですか!」

「千代丸だって見た目は猫だが大人だぞ!」


 千代丸くんを指差しながら私に詰め寄りながら紫月が言う。


「え、そうなの……?」

「はいニャ。江戸の時から生きている、化け猫でございますニャ」

「江戸!? ……でも千代丸くんはかわいいからいいんです!」

「な、何⁉ 千代丸許すまじ……!」